DXの推進では、過度に不安を持たず4つの準備をしておくことが重要である。また、実現手段の制約を明らかにし、業務部門のメンバーを慎重に選出する。今回と次回で、DXを推進する際に陥りやすい6つの失敗を解説する。
本連載ではこれまで、デジタル技術を使って業務のやり方を改革する「業務改革型DX(以下DX)」に取り組む際の考え方や進め方について解説してきました。
今回と次回は、本連載のまとめとして、DXの推進を担当するエンジニアが陥りやすい6つの失敗を「やってはいけない」という形式で解説します。今回も日経ITソリューションズの中堅SEである村山さんが担当する架空の事例を交えて学んでいきましょう。
日経ITソリューションズの村山は、顧客であるマイルス精工での「工場DXプロジェクト」のサポートを終了した。何度も想定外の事象が発生したが、試行錯誤しながらなんとか乗り切った。苦労して構築した新しい仕組みは今では現場に定着化し、ビジネスでの成果も出始めていた。
プロジェクトの推進中には、超上流工程のエキスパートである先輩SEの工藤に、何度も有効なアドバイスを受けてきた。そのアドバイスがなければプロジェクトを成功させることはできなかっただろう。
村山は、プロジェクトが終了した報告も兼ねて、これまでのお礼を述べるために工藤を訪ねた。
「マイルス精工での工場DXプロジェクトが無事に終了しました」
「そうか!よく頑張ったな。おめでとう」
工藤が満面の笑みで出迎えた。
「なんとか乗り切れたのは、工藤さんにアドバイスをいただいたおかげです。本当にありがとうございました」
「お役に立てたならよかったよ。ところで、今日は俺の方から聞きたいことがあるんだ」
工藤が穏やかな表情で言った。
「えっ!なんでしょうか。自分に分かることなら何でも答えます」
「村山くんのような従来のシステム化に慣れているSEがDXに取り組むときに、気を付けなければいけないことは何だろう」
工藤から予想外の質問を受け、村山は目を閉じてマイルス精工での取り組みを思い出してみた。そして、少し間を置いてから答えた。
「いくつかありますが、まず、新しい取り組みだと思い過ぎないことではないでしょうか」
「それは面白いね。詳しく教えてよ」
工藤が身を乗り出しながら言った。