技術の進展で再び脚光
実はメタバースの概念そのものは古くからある。代表例は米リンデンラボが2003年に提供を始めた「Second Life」だ。ただ当時はインターネット接続回線の速度が遅く、パソコンでのアクセスに限られるなど、使い勝手が悪く利用が伸び悩んだ。
メタバースが再び注目を集めるようになったのは2010年代後半、3Dゲームの世界だ。「Minecraft」「Fortnite」「あつまれ どうぶつの森」といったゲームの世界がメタバースとして使われ、音楽ライブやイベントなどの開催事例が立て続いた。
足元では世界で参入企業が相次ぐ。CG(コンピューターグラフィックス)やVR(仮想現実)技術などが進展したことで、リアルな世界を低コストで再現しやすくなったのだ。
端末も進化している。「Oculus Quest 2」など最新のHMDでは、マイク性能が向上して声が聞き取りやすくなり、立体音響の採用で「メタバース内の相手がいる方向」から声が聞こえてくる。コミュニケーションのストレスが減り、まさに相手が目の前で話している感覚に近づきつつある。
市場は10倍に、課題は秩序維持
米ボストン・コンサルティング・グループなどによると、VRやAR(拡張現実)などメタバース関連機器の世界市場規模は、2024年には2021年の10倍に当たる約2970億ドルに達する見通しだ。それだけではない。メタバースではユーザーが自ら物販やイベントを手掛けるなど、新しい形のビジネスが広がるとみられている。ブロックチェーンの仕組みを使ってデジタルコンテンツを売買する非代替性トークン(NFT)をメタバースに導入すれば、安心・安全な商取引が可能だろう。
ただ現状のメタバースには課題もある。仮想空間とはいえアバターを操作するのは生身の人間。秩序維持のルールが必要なのは現実社会と変わらない。メタバース運営企業などを中心に、メタバースを利用するうえで生じる法律上の課題を整理してルールを明文化しようとの取り組みが始まっている。
例えばKDDIと東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、渋谷未来デザインの4組織は2021年11月、メタバース運営に関するガイドライン策定を目的に「バーチャルシティコンソーシアム」を設立した。代表幹事を務める中馬和彦氏は「現実の都市と連動した商取引が仮想空間で発生した場合、権利者や都市、プラットフォーマーでどう収益を分配するかといった課題が出てくる。渋谷区とは仮想空間における行政サービスなどについて議論もしている。バーチャル渋谷での知見を生かし、ガイドライン第1版を2022年3月までにつくりたい」と意気込む。