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 2021年は老年学と金融研究を組み合わせた「金融ジェロントロジー」に基づいて開発された、AI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)を活用した金融サービスが次々と登場しそうだ。金融ジェロントロジーとは、加齢に伴う課題を扱いより良い生き方を追求する老年学(ジェロントロジー)の知見を、資産選択や資金管理といった金融の問題解決に生かすことを狙った研究や取り組みを指す。

 同分野の第一人者であり、慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター長を務める同大経済学部の駒村康平教授によると、日本の家計が保有する金融資産に占める75歳以上の保有割合は2015年で22%。2030年には31%に達する見込みだ。金融機関は高齢社会に適した金融サービスを提供する必要がある。

 駒村氏は「金融機関は金融ジェロントロジーについて理解を深めることに加え、IoTやAIなどのテクノロジーを使って高齢者を金融取引から取り残さない仕組みづくりを進めることが求められる」と話す。実際に様々な金融機関やITベンダーが現在、テクノロジーを活用した金融ジェロントロジーに関する取り組みを進めている。

 先行しているのが高齢者を「見守る」サービスだ。高齢者向けの金融サービスでしばしば問題となるのが認知能力の低下であり、周囲の人がサポートする仕組みづくりも欠かせない。きちんと周囲の人が目を配ることで金融詐欺から守ることもできる。

 NTTデータは2021年春にも、ATM(現金自動預け払い機)などで高齢者が資金を引き出した際にメールやアプリケーションを通じて家族に通知するサービスを始める。同社のネットバンキングサービス「AnserParaSOL」やアプリ「My Pallete」を使用している金融機関向けに追加機能として提供する予定だ。同サービスを使えば、高齢者がいつ、どこで、いくら入出金したかを家族はリアルタイムで把握できる。「(認知能力が低下した)高齢者の行動を制限するのではなく、家族が見守った上で自由に金融サービスの恩恵を受けられる仕組みが必要だ」とNTTデータ第四金融事業本部e-ビジネス事業部部長の安藤哲也氏は同機能を開発した理由を説明する。

表 ITを使った金融ジェロントロジーへの取り組みの例
老年学(ジェロントロジー)の知見を金融サービスに導入
表 ITを使った金融ジェロントロジーへの取り組みの例
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 福岡銀行も2021年3月をメドに、AIが特殊詐欺などを検知する口座見守りサービスを始める予定だ。すでに2020年7月から実証実験を始めており、「毎月月末にしか大きなお金を引き出さない人が、月初に立て続けに大金を出金など、異様な行動が見られたときにAIが検知して家族に知らせたりする」(福岡銀行の担当者)。

資金の利用用途を「見える化」

 高齢者の金融資産がきちんと本人のために使われているか、ITを使い見守る仕組みもある。三菱UFJ信託銀行が2019年3月に販売を始めた代理出金機能付信託「つかえて安心」は、資金を出金する際に領収書をスマートフォンで撮影して申請する。その際、請求の内容は契約者のほか、代理人や遠方にいる家族に通知される。請求の内容を医療費や食費など項目別に管理でき、適切かどうか把握できる。

 慶応大学の駒村教授は「テクノロジーを使い高齢者に優しい金融機関を標榜できれば、競争力強化にもつながる」と話す。2021年は金融ジェロントロジーに関連するサービス開発競争が活発化しそうだ。