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 工事現場で作業員が負傷した労災事故を巡る訴訟で、津地裁は発注者の津市の過失割合を2割とする判決を言い渡した。作業員への賠償を全額、施工者に負担させた市の対応は行き過ぎだとして、差額の2348万円を支払うよう市に命じた。2020年1月16日に判決があり、津市は1月29日に名古屋高裁に控訴した。

 事故は12年3月、津市が勢和建設(津市)に発注した側溝の更新を伴う道路修繕工事の現場で発生。同社社員(当時)の作業員が側溝の設置場所を掘削していたところ、隣接する既設の石積み擁壁が崩落し、重傷を負った(写真1)。

写真1■ 道路脇の石積み擁壁が崩落した事故現場(写真:ビオス法律事務所)
写真1■ 道路脇の石積み擁壁が崩落した事故現場(写真:ビオス法律事務所)
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 市職員は事故発生の前日、擁壁の根入れが掘削する側溝の底面よりも高い位置にあるため、勢和建設の社長に安全対策を講じるよう指示していた。しかし、同社の作業員らは擁壁に背を向けて作業をしないことなどを確認しただけだった。

 事故の後、勢和建設は裁判外で作業員に2206万円の損害賠償を支払った。これを受け、作業員は損害賠償を求めて津市だけを提訴。市は17年12月に名古屋高裁で敗訴し、翌18年に9326万円の損害賠償を作業員に支払った。

 その後、市は勢和建設がこの賠償を全額“肩代わり”すべきだとして、遅延損害金を含む9367万円を同社に請求。勢和建設に発注した別の工事5件の費用支払いを差し止めて、事実上、この金額を同社に負担させた。

 勢和建設は同年、市に支払う形になった9367万円に遅延損害金を加えた9834万円を市に請求する訴訟を津地裁に提起した。

 同社は、市が石積み擁壁への安全対策の実施を指示しただけで具体的な方法を示さず、工事を一時中止するよう求めなかったことから、市にも過失があると主張。さらに、設計段階で擁壁に土留めや支保工の設置などを計画しなかったことや、掘削位置を擁壁から離すなど着工前に提案した設計変更を行わなかったことも市の過失だとして、損害賠償の全額負担は過大だと訴えた。

 一方、津市は、設計図書に指定が無い施工方法は施工者が自己責任で決めるものとする契約約款上の「自主施工の原則」などに基づき、勢和建設が自らの判断で対策を講じるべきだったと反論した。

具体的に対策指示しないのは過失

 津地裁は判決で、勢和建設が危険な擁壁に安全対策を講じるよう津市から指示を受けながら、何ら対策を取らなかったのは過失だと認定した。

 他方、勢和建設が対策をせずに掘削工事を続ける可能性があったにもかかわらず、自主的に安全対策を取ると津市が期待したことを「軽率」と批判。取るべき対策を市が具体的に指示しなかったのも過失と結論付けた。

 市が設計段階で安全対策を講じなかった点については、その段階では石積み擁壁の根入れが掘削の深さよりも高い位置にあると分かっていなかったことを理由に、過失ではないとした。

 そのうえで津地裁は、過失割合を勢和建設が8割、津市が2割とした。勢和建設が負傷した作業員に支払った2206万円と市が支払った9326万円を合計した1億1532万円の8割に当たる9225万円を勢和建設が、2割に当たる2306万円を市が負担すべき賠償額と認定した。