岐阜県中津川市内のリニア中央新幹線中央アルプストンネルの建設工事で生じた陥没事故は、不安定な地山に補助工法を採用しなかったことが一因だと分かった。事故は2019年4月8日に、非常口となるトンネルの地上部で発生していた(写真1)。
岐阜県が19年7月5日に開いた環境影響評価審査会地盤委員会で、事業者のJR東海が明らかにした。
陥没は、地上から本線トンネルに向かって斜めに掘り進んでいた際に、坑口から200m付近で起こった。
JR東海から工事を受託した鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が19年5月に公表した推定原因では、不安定な地山に適さない断面形状で掘削したことだけを挙げていた。
今回、JR東海が陥没原因の1つに補助工法の不採用を挙げたのは、適切に施工すれば地盤沈下のリスクを抑えられると過去に示していたからだ。同社は17年5月に県に提出した「中央新幹線、中央アルプストンネル(山口)工事における環境保全について」の報告書で、「地盤沈下への影響を回避または低減できる」と明記していた。
「強風化花崗岩」は少ないと判断
JR東海は報告書で、「土かぶりが小さく、地山の地質条件が良くない場合には、先行支保工などの補助工法を採用することで、地山の安定を確保することが可能」と説明していた。
県の審査会に出席したJR東海と鉄道・運輸機構、施工者の鹿島・日本国土開発・吉川建設JVの説明によると、工事前に実施した地質調査の結果、先行支保工などの補助工法は不要と判断した。
事前の地質調査では、風化が進んでいるものの岩としての強度が残っている「風化花崗岩(かこうがん)」と、手で触るとボロボロと崩れる「強風化花崗岩」とが、付近の地山に混在している状況を把握していた(図1、2)。それでも、掘削箇所にはもろい強風化花崗岩が少ないとみて、補助工法を採用しなかったという。