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 国土交通省国土技術政策総合研究所と九州地方整備局は共同で、降雨がない中で斜面が突然崩壊する「無降雨時崩壊」の発生メカニズムや危険な斜面を抽出する研究に乗り出す。両者が事務局となって「無降雨時等の崩壊研究会」を立ち上げ、8月21日に第1回の会合を開いた。

長さ210m、最大幅110mにわたって崩壊した耶馬渓町の斜面。中央のV字崩壊した箇所から湧水が見られる。滑り面の深さは20m程度と推定する専門家も(写真:国土交通省)
長さ210m、最大幅110mにわたって崩壊した耶馬渓町の斜面。中央のV字崩壊した箇所から湧水が見られる。滑り面の深さは20m程度と推定する専門家も(写真:国土交通省)
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2015年6月24日から9月1日にかけてと、翌16年6月30日から7月4日にかけて、鹿児島県垂水市二川深港で起こった土砂災害。降雨後などに大小の崩壊と土石流が繰り返し発生した(写真:国土交通省)
2015年6月24日から9月1日にかけてと、翌16年6月30日から7月4日にかけて、鹿児島県垂水市二川深港で起こった土砂災害。降雨後などに大小の崩壊と土石流が繰り返し発生した(写真:国土交通省)
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 無降雨時崩壊とは、雨が降りやんだ後や全く雨が降っていない時に斜面が崩壊する現象のこと。研究会を設立するきっかけとなったのは今年4月11日未明、大分県中津市耶馬渓(やばけい)町で発生した土砂災害だ。民家の裏山が6万m3以上にわたって崩れ、3世帯6人が犠牲となった。

 県は現場周辺を土砂災害特別警戒区域に指定していたものの、崩壊当時は住民に向けて避難勧告や土砂災害警戒情報などを出していなかった。崩壊の前日や当日に雨が全く降っていない中での出来事だったからだ。

 耶馬渓町で崩れたのは火砕流台地の周縁部。同様の無降雨時崩壊は2015年に鹿児島県垂水市で、10年に同県南大隅町でも、それぞれ発生している。

地下の集水域を特定

 無降雨時崩壊は地下水が主な原因となっているものの、発生のメカニズムに不明な点が多く、住民の事前避難や警戒が難しい。「崩壊後の救助活動や復旧活動の際に、二次被害を引き起こす恐れもある」と国交省九州地整河川計画課の小林侑課長は話す。避難勧告などを解除するタイミングも判断しづらい。

 研究会には国総研土砂災害研究部や九州地整河川部、大分県のほか、土砂災害などを研究する鹿児島大学の地頭薗(じとうその)隆教授と九州大学の水野秀明准教授も参加する。19年度末までに、無降雨時崩壊の発生メカニズムの解明に加え、危険斜面の抽出マニュアルをまとめる方針だ。

 具体的には、九州地方の火砕流台地の周縁部を対象に、航空レーザー計測で崩壊跡地の有無や分布を調査。さらに、水文観測や地下の地質構造を把握できる空中電磁探査を組み合わせ、地下の集水域を特定することで、危険な斜面の抽出につなげていく。

「崩壊の発生予測も可能に」

 耶馬渓町の斜面崩壊では、崩れた斜面の中腹に崩壊の引き金になったとみられる湧水があった。流量は4月29日時点で毎秒0.3リットル。5月24日に再び計測すると、毎秒0.55リットルになっていた。

 砂防学会の調査団のメンバーとして現地を調べた地頭薗教授は、「湧水点における地形的な流域面積は0.007km2しかない。地表面の集水域を見ただけでは説明がつかない湧水の多さだ」と指摘。地形的な流域界を越えた地下の集水域が存在するとみる。現在の火砕流台地が形成されるよりも以前の深い場所にある基盤地形によって、地下水が集まりやすい場所があるというのだ。

 降雨から長い時間を経て浸透する深い地下水が原因であれば、無降雨時の斜面崩壊も説明できる。

 地頭薗教授は、耶馬渓町で崩壊した斜面とその周辺の渓流を調査。崩壊した斜面からの湧水は、周辺に比べて比流量も電気伝導度も大きいことを突き止めた。

 比流量とは、1秒間当たりの流量(m3)を地表面の集水域面積(km2)で除した値。電気伝導度とは、水中の溶存イオンの総量を表す指標で、値が大きいほど水が長時間、地下を流れて岩石から溶出したイオンを取り込んだことを意味する。

 比流量が大きく、電気伝導度が高い流域ほど、豊富な地下水が集まる危険な斜面が存在すると言える。耶馬渓町の崩壊斜面はまさにこうした状況にあった。「湧水流量の変化を継続して観測すれば、崩壊の発生予測も可能になるはず」と地頭薗教授は言う。

 現在の土砂災害警戒区域の指定は、斜面の傾斜角や高さなど、主に表面の地形を見て判断している。耶馬渓町の崩壊現場の周辺でも指定を受けた区域が多いなか、なぜ今回の斜面が無降雨時に崩れたのか、地頭薗教授の調査結果は謎を解く鍵の一つになりそうだ。研究会でもこうした知見を参考に議論していくとみられる。

(関連記事:2018年8月27日号「深い地下水で「無降雨崩壊」」)