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 茨城県常陸太田市の発注ミスで下水道施設の改修が必要になった問題で、市は費用の一部を賄うため全職員の減給を検討している。しかし、減給に必要な条例の改正を目指したところ、ミスと無関係の職員を減給することに疑問の声が噴出。市議の間でも慎重な意見が相次いだため、市議会は2022年9月21日、改正案を採決せず継続審査すると決定した。

 発注ミスが判明したのは、市北東部の住宅団地「四季の丘はたそめ地区」と、市中心部で主に商業施設を誘致するために進めている「東部土地区画整理事業」の対象区域で公共下水道を設計する業務だ。どちらも市が発注時の与条件を正しく設定せず、容量が不足した(資料1)。

資料1■ 「基本的な確認作業がおろそかだった」
資料1■ 「基本的な確認作業がおろそかだった」
常陸太田市が2022年5月にホームページで公表した市長コメント(出所:常陸太田市)
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 市は下水道整備のため、区域ごとに基本となる単位面積当たりの汚水量を定めて、各区域内で下水道を設計する際の与条件としている。ただ、人口密度の局地的な違いなどで個別に汚水量を算定しなければならない箇所もある。両地区はどちらも個別算定が必要だったが、設計を発注した職員はそれを怠っていた。

 はたそめ地区は約2700人の住民がいるのに、700人余りとして下水道を設計。整備後、22年4月には汚水がマンホールの蓋から路上にあふれ出た。一方、東部地区の完成済みの下水道は、0.58m3/mの容量のマンホールポンプが必要と予測される街区であるにもかかわらず、0.18m3/mの容量しかなかった。

 市は、下水道の容量不足に対応するため、管の増設やマンホールポンプの交換などを予定している。必要な諸費用は、現時点で約4億円の見込みだ。改修工事費のほか、容量を超えた汚水の処理費などを含む。

減給分は7500万円

 市長などのほか、市上下水道部で設計発注を担当した職員やその上司の減給を懲戒処分として実施。さらに、「市が市民に迷惑を掛けたことへのおわびとして」(総務課)、上下水道部以外の部署でも非正規雇用の職員など一部を除く全職員について減給しようとした。

 懲戒の対象でない職員の減給には条例の改正が必要だ。市は22年10月から1年半にわたり、正規雇用の職員約560人を対象に減給するという内容の改正案をまとめた。実現すれば市の人件費を7500万円ほど減らせる見込みだった。

 総務省公務員課によると、自治体職員の給与の増減は基本的に自治体の判断で決めてよく、常陸太田市の条例改正に法的な問題はないとみられる。しかし、市議会は慎重な審議のため、市が見込んでいた会期末の22年9月21日の採決を見送った。次の会期は22年12月からだ。