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 2019年10月の台風19号の大雨でダムの緊急放流が相次いだことを受け、政府は利水のための貯水容量を治水に活用するようダムの運用方法を見直す。降雨の前に利水用の貯留水を一部放流して水位を下げる「事前放流」の実施体制を整える(図1)。

図1■ 利水容量を放流して洪水調節を増やす
図1■ 利水容量を放流して洪水調節を増やす
事前放流のイメージ。河川管理者と利水者が協議して合意を得られた場合に、対価なしで利水容量の一部を一時的に治水に使う(資料:国土交通省)
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 19年11月26日に、国土交通省や経済産業省など関係省庁の局長などで構成する「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」の初会合を開き、方針案を示した。20年夏までに新たな運用方法の導入を目指す。

 洪水調節容量を持たない利水ダムは全国で898カ所、多目的ダムを含めて治水機能を持つダムは562カ所ある。この1460ダムの貯水容量は合計で180億6400万m3に上るが、治水に使用できるのは約3割にとどまる。

 台風19号では、洪水を調節した146ダムのうち、6ダムで水をためきれず、流入量とほぼ同量を放流する「異常洪水時防災操作」(緊急放流)を実施した。そのうち2ダムでは事前放流をしていたが、他の4カ所は実施していなかった。

 河川法に基づくダムの操作規則では、河川管理者と利水者のダム建設時の費用負担に応じて、河川管理者は洪水が起こる前に利水容量の水を一部流す「予備放流」を実施できると定めている。一方、事前放流は河川管理者が建設費用を負担していない分まで利水容量の水を放出する操作を指す。実施できるのは、利水者の合意が得られた場合に限られる。

 事前放流をするには利水者と河川管理者が実施の条件や放流量について事前に協議し、協定などを結んでおく必要がある。降雨量が予想を下回ると利水容量が回復しない恐れがあるため、合意を得にくい。

関連省庁の連携を強化

 国交省によると、事前放流に関する協定を結ぶなど実施体制が整っているのは、1460のダムのうち61カ所だけだ。河川法では、事前の協定がなくても緊急時は河川管理者が利水ダム管理者に事前放流などの措置を取るよう指示できると定めている。しかし、河川と利水ダムは管轄する省庁が異なり、連絡体制が不十分だったことなどから、発動した実績は1964年の河川法制定以来一度もない。

 国交省だけでなく、発電用水を管理する資源エネルギー庁や農業用水を管理する農林水産省などが連携し、事前放流を実施しやすい体制を整える。各ダムで事前放流の効果を検証する他、利水者と河川管理者の協定締結を促す方針だ。

 その他、国交省は20年度予算の概算要求で、利水者が事前放流に協力しやすくなる制度を新たに盛り込んだ。放流後に水位が下がって発電などに損失が生じた際に、国が補填する制度の創設を検討している。