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 東京大学生産技術研究所の沖一雄特任教授らのグループは、湿原に生息するシカの頭数を、鳴き声やドローンの画像から推定する手法を開発した。自然環境保全地域に人が高頻度で立ち入ることなく、植生被害をもたらすシカの個体数を管理する基礎データが得られる。

 開発した手法は日本最大の山岳湿原である尾瀬ケ原で実証した。手法は2つに分かれる。1つ目は、雄ジカの鳴き声から時空間分布を把握し、総個体数を推定する手法だ。

 湿原に3個以上のマイクを設置し、繁殖期の雄ジカの「フィーヨフィーヨ」という特徴的な鳴き声を録音する。鳴き声がマイクに届くタイミングのずれから、複数の雄ジカの鳴いた場所を即時に特定する。

 沖特任教授は「シカがいつ、どこにいるかを鳴き声から評価する手法は、恐らく世界初ではないか」と言う。ただしこの手法は有効に使える時期に制約がある。雄ジカの繁殖期の9月中旬から11月までだ。

 2つ目は、ドローンに搭載した熱赤外カメラの画像から個体数を数える手法だ(写真1)。夜間に森林から湿原内に移動するシカの習性に着目した。森林では、シカが木の葉に隠れて写らないことがあるため、湿原でドローンを飛ばす。

写真1■ 熱赤外カメラを搭載したドローンを夜間に飛ばして観測している様子(写真:東京大学生産技術研究所・沖一雄特任教授らの研究グループ)
写真1■ 熱赤外カメラを搭載したドローンを夜間に飛ばして観測している様子(写真:東京大学生産技術研究所・沖一雄特任教授らの研究グループ)
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 従来は主に、夜間に照らすライトの反射でシカの目が光ることを利用して数を把握する「ライトセンサス」という手法を使っていた。開発した手法では、従来手法と比べて平均値で約3倍に当たるシカの頭数を観測できた(図1)。

図1■ ドローンの方が確認頭数が増える
図1■ ドローンの方が確認頭数が増える
数字は確認できた個体数。調査は両方とも2019年8月6日に実施した(資料:東京大学生産技術研究所・沖一雄特任教授らの研究グループ)
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 尾瀬ケ原での実験で得たシカの個体数は、鳴き声で観測する手法では539~667(平均550)頭、ドローンによる観測では470~696(平均626)頭だった。今後、推定値を絞り込めるように改良を加える方針だ。2つの手法は季節や現地の状況に応じて、単独または組み合わせで活用する。

 開発した技術の用途は、尾瀬ケ原におけるシカ対策だけにとどまらない。沖特任教授は「音声をデータベース化する手法は、鳥やその他の動物など鳴く生物全てに対応可能だ」とみる。

 既に、希少なカエルの分布や個体数の把握に使えないかといった問い合わせもあるという。「土木分野では、工事後の環境評価を音で実施するのも面白いのではないか」と沖特任教授は話す。