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 會澤高圧コンクリート(北海道苫小牧市)とアイザワ技術研究所(札幌市)は、コンクリート構造物のひび割れなどの損傷をバクテリアが自動修復する「自己治癒コンクリート」の量産技術を世界で初めて確立した。2020年11月16日から自己治癒化材料の製造を開始している(写真1)。年間70万m3に相当する自己治癒コンクリートの大量製造が可能だ。

写真1■ 札幌市内に完成した自己治癒化材料を製造するプラント。バクテリアとポリ乳酸の粉体を混ぜる特殊ミキシング装置(写真:會澤高圧コンクリート)
写真1■ 札幌市内に完成した自己治癒化材料を製造するプラント。バクテリアとポリ乳酸の粉体を混ぜる特殊ミキシング装置(写真:會澤高圧コンクリート)
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 実用化した自己治癒手法は、オランダのデルフト工科大学のヘンドリック・ヨンカース准教授が率いる研究チームが考案した。アルカリ耐性を持つバクテリアとその餌となるポリ乳酸をコンクリートに配合しておく。ひび割れなどが生じると、割れ目から浸透した水と酸素で、休眠していたバクテリアが活性化。餌を食べて、ひび割れを埋める炭酸カルシウムを生成する(写真2)。

写真2■ 自己治癒機能でひび割れを埋めたコンクリート(写真:會澤高圧コンクリート)
写真2■ 自己治癒機能でひび割れを埋めたコンクリート(写真:會澤高圧コンクリート)
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 曾澤高圧コンクリートは、デルフト工科大学が設立したオランダのバジリスク・コントラクティングBVと独占販売の契約を17年4月に締結。当時、既に欧州では自己治癒コンクリートが商品化されていたが、日本のコンクリートへの適用は難しかった。最適な自己治癒化材料の検討と量産化に時間を要した。

 ヨンカース准教授が製作したプロトタイプでは、糸状に押し出し成形した生分解性プラスチックのポリ乳酸に、培養したバクテリアを等間隔で注入して2mm程度の間隔で裁断。水中で冷やした後に乾燥させた「カプセル」を用いる(写真3)。ただしその大きさがネックとなった。

写真3■ 押し出し成形したポリ乳酸にバクテリアを注入して、等間隔に裁断した自己治癒化材料。長さは2mm程度。今回の量産化前の製品で使われてきた材料だ(写真:會澤高圧コンクリート)
写真3■ 押し出し成形したポリ乳酸にバクテリアを注入して、等間隔に裁断した自己治癒化材料。長さは2mm程度。今回の量産化前の製品で使われてきた材料だ(写真:會澤高圧コンクリート)
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 「カプセルが大き過ぎて、コンクリートに混ぜると浮力などで上がるため安定しづらい。製造工程が複雑で大量生産にも向いていなかった」。開発を主導してきた會澤高圧コンクリート生産化学本部の酒井亨副本部長は、こう明かす。

 オランダで使っているセメントはフライアッシュなどを混ぜている。一方、純度の高いクリンカーを主原料としたセメントを使う日本のコンクリートはアルカリ成分が強く、ポリ乳酸を加速的に分解するため、乳酸カルシウムを過剰に生成。それがコンクリート表面に白い斑点として浮かび上がった。