100年先を見据え計画より80cm高く
北海に注ぐエルベ川の河口から上流に約100km。ドイツ北部の港湾都市であるハンブルク市に2019年5月、全長625mの防潮堤が完成した。
意匠設計を手掛けたのは、06年のアイデアコンペで勝利したザハ・ハディド氏(16年3月に他界)率いるザハ・ハディド・アーキテクツだ。海抜約9mの防潮堤の天端に幅10m以上の遊歩道を通したうえ、川側と街側の複数箇所に遊歩道へアクセスするための階段やスロープを配置。防災機能を高めると同時に、市民の憩いの場を創出した(写真1~3)。
「コンペでの課題は2つあった。1つは市民を洪水から守る堅固な防潮堤を築くこと。もう1つは、防潮堤が川と街のつながりを遮断しないことだ」。ザハ・ハディド・アーキテクツでプロジェクトリーダーを務めたヤン・フーベナー氏はこう語る。
相反する2つの課題を解決するために採用したのが、伝統的な土堤を連想させる鉄筋コンクリート製の幅の広い防潮堤の躯体と、その側面を大きくえぐり、すり鉢状にしつらえた階段だ(図1~3)。階段は円形劇場のようにも見える。
「遊歩道が川と街の両方に開かれた印象を与える」と、発注者であるハンブルク市道路・橋・水域公社(LSBG)のオーラフ・ミュラー水域・洪水対策部長は評価する。街側からは、階段を通して遊歩道を歩く人々や停泊する船のマストが見える。遊歩道から川側に向かう階段に座れば、港の景色を一望できる。
遊歩道の高さ、すなわち防潮堤の天端高は、30年先を見据えて設定した計画時の条件よりもさらに80cm高くした。100年先の水位上昇などを考慮した結果だ。
一般的な防潮壁なら将来、高さ80cmの壁を付け足し、かさ上げすればよい。「しかし、天端の遊歩道に加え、川と陸の両側に階段を備えたエルベプロムナードでは、後から壁を建てるわけにはいかなかった」とヤン・フーベナー氏は説明する。細長く狭い場所に高い防潮堤を築くため、敷地を4~7.5mほど川側に拡幅して、鋼矢板などを打ち込んだ。
防潮堤の躯体内部は150台を収容できる駐車場になっている。防潮堤の街側に沿って、歩道だけでなく自転車レーンも整備した。
防潮堤の地下には、エルベ川につながる水路が横断する。高潮時の逆流を防ぐため、開閉式の水門を設ける必要があった。「外からは見えないが、防潮堤と一体化できるように工夫した」と、構造設計を担ったエンジニアビューロー・グラスルのマーティン・グラスル氏は話す。