曲線補剛桁をバスケットハンドルで支える
水面からの高さは80m。橋から天竜川を見下ろすと、水墨画のような渓谷美が広がる。長野県飯田市に架かる鋼上路式アーチ橋「天龍峡大橋」は、自動車専用道路の橋の桁下に、検査路を兼ねる歩道を添架した珍しいつくりだ(写真1)。途中2カ所にある展望デッキでは多くの人が足を止め、渓谷だけでなく、間近に迫る橋の部材などにも見入っていた。
橋は三遠南信自動車道の一部として、国土交通省中部地方整備局飯田国道事務所が整備した。橋長は280m。2019年11月に開通すると、絶景を望む“空中散歩”が話題となり、多くの人が詰めかけた。
周囲から橋を見た時の圧迫感を低減するため、アーチ支間長210mに対して、上下方向のアーチライズは19mしかない。前者を後者で除したアーチライズ比は11.1で、国内の大規模な鋼上路式アーチ橋で最も扁平(へんぺい)な形状となっている(写真2、図1、2)。
橋の計画地は国指定名勝・天龍峡の範囲内にあり、文化庁との協議が必要だった。背後のスカイラインをできるだけ阻害しないように上路式アーチ橋を選定したものの、当初計画していたアーチライズは28.5m。構造特性に優れるものの、「橋が目立ちすぎる」と文化庁が難色を示し、協議は難航した(写真3)。
これを受けて、国交省飯田国道事務所は検討委員会を設置。プロポーザルを経て、パシフィックコンサルタンツが当初の設計案を見直した。
当初案では右岸に2基の橋脚を計画していたが、変更案ではアーチ橋台上に設ける1基だけに削減。アーチ橋台の位置も、斜面頂部付近に移した。「地形の改変を最小限に抑えたうえで、自然景観の中で橋が主役にならないようにスレンダーな構造を目指した」。元同社取締役・交通基盤事業本部長で管理技術者を務めた徳川和彦氏はこう話す。
課題となったのが、半径1700mの曲線を描く道路線形だ。まず、道路線形に沿って橋面を支える2本の曲線の補剛桁を配置。次に、カーブの内側に当たる補剛桁のほぼ真下に、1本目のアーチリブを設けた。2本目のアーチリブは、1本目と線対称に架ける。左右のアーチリブ同士の間隔が頂部に向かうほど狭くなる「バスケットハンドル」と呼ぶ造形だ。
アーチリブと補剛桁をつなぐ中間支柱は、カーブの内側に並ぶ支柱がほぼ鉛直に立つのに対し、外側の支柱は外に開いた一定の傾きを持つ。「2本のアーチリブが荷重を均等に負担できるように、床版をカーブの外側に1m長く張り出して調整した」と同社中国支社交通基盤事業部構造室の西谷真吾室長は説明する。