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 空中に飛び出た座面で読書する人がいれば、中央が膨らむ楕円体に寝転ぶ人もいる。阪急神戸三宮駅前に2021年10月、リニューアルオープンした「さんきたアモーレ広場」だ。彫刻のような造形物がベンチやテーブルとして機能する(資料12)。

資料1■ 「さんきたアモーレ広場」。弧を描くベンチは座面の高さや幅が変化(写真:生田 将人)
資料1■ 「さんきたアモーレ広場」。弧を描くベンチは座面の高さや幅が変化(写真:生田 将人)
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資料2■ 楕円体3つを門形に組み合わせた「フロート」。夜間照明でアルミの素材感が強調される。製作は高橋工業(宮城県気仙沼市)。4分割で陸上輸送し、現場溶接で一体化した(写真:生田 将人)
資料2■ 楕円体3つを門形に組み合わせた「フロート」。夜間照明でアルミの素材感が強調される。製作は高橋工業(宮城県気仙沼市)。4分割で陸上輸送し、現場溶接で一体化した(写真:生田 将人)
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 神戸市は18年、三宮地区の再整備を官民連携で進めるために、基本計画を作成。6つの駅を1つの「えき」と捉え、周辺の「まち」とつなぐ構想を立てた(資料3)。

資料3■ 「えき」と「まち」をつなぐ
資料3■ 「えき」と「まち」をつなぐ
基本計画の概要。民間開発と一体的に市が道路や広場を整備(資料:神戸市)
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 先陣を切って完成したのが阪急神戸三宮駅の北側エリアだ。神戸三宮阪急ビルの再開発をきっかけに、市が駅前のアモーレ広場と広場に続くサンキタ通りや交差点を改修した。

 改修前の広場は、「パイ山」の愛称で市民に親しまれてきた(資料4)。「より愛される空間に再整備するため、広場のデザイン案はコンペで広く募集した」(神戸市都心再整備本部都心三宮再整備課の中田将紀係長)

資料4■ 改修前。神戸有数の待ち合わせ場所で、隆起した形から「パイ山」と呼ばれていた(写真:神戸市)
資料4■ 改修前。神戸有数の待ち合わせ場所で、隆起した形から「パイ山」と呼ばれていた(写真:神戸市)
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 220件の応募作品から最優秀賞に選ばれたのが、津川恵理氏の提案だ。当時は米国ニューヨークの建築設計事務所に在籍。現在は独立し、建築設計集団のALTEMY(アルテミィ)(東京都台東区)の代表を務める。

 市は提案のイメージを損なわず実現するため、設計者を選定するプロポーザルを実施。パシフィックコンサルタンツを代表とする設計JVに設計を委託し、津川代表にはデザイン監修を委ねた。

 広場の造形物は「フロート」「ランド」などと名付けた(資料56)。楕円を描くベンチは「スイープ」。舗装面から続く座面がカーブしながら高さ約90cmまで上がり、幅も変わる。

資料5■ 手前は楕円体の「ランド」。登ったり寝転んだりできる。舗装面に対して10度傾く(写真:生田 将人)
資料5■ 手前は楕円体の「ランド」。登ったり寝転んだりできる。舗装面に対して10度傾く(写真:生田 将人)
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資料6■ 3次元の形を把握しながら材料や構造を選定
[3Dアクソメ図]
[3Dアクソメ図]
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「フロート」の貫通部。絶縁塗装のうえ配筋し、コンクリートで一体化
「フロート」の貫通部。絶縁塗装のうえ配筋し、コンクリートで一体化
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打設前の「スイープ」。鉄筋コンクリートとステンレス鋼の合成構造
打設前の「スイープ」。鉄筋コンクリートとステンレス鋼の合成構造
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KAPの資料を基に日経コンストラクションが作成

 「場所によってベンチやテーブルになる。駅前広場の過ごし方は百人百様。作り手が使い方を押し付けるのではなく、自分の身体寸法に合った場所を探して選べるようにデザインした」(津川代表)

 ベンチを支持する「リーン」は背もたれになり、楕円体の「ランド」は座ったり寝転んだりできる。これらは楕円体を門形に組み合わせた「フロート」へと続く。現場で遊ぶ中学生は、「自分の体格や好きな角度に合わせて座れる」と満足げだ。