浮き床で軽量化と段差解消を図る
JR藤沢駅(神奈川県藤沢市)の2階改札から駅前デッキに出ると、大きく視界が開けた。木陰のベンチで本を読んだり、人工芝の広場で座り込んだり──。公園のようにくつろぐ人々の姿が見える。
藤沢市が2019年12月にリニューアルを終えた藤沢駅北口ぺデストリアンデッキ「サンパール広場」だ(写真1、2、図1)。21年4月に市が施行した条例で、民間単独でのイベントにも活用できるようになった。
北口デッキは1979年に誕生(写真3)。駅と周辺ビルを直結する広さ約4700m2の人工地盤で、下にバスターミナルを配置する。通行帯の他、市民祭りなど公的なイベントの場としても使われてきた。近年は老朽化が進み、繁茂した植物で見通しが悪く、随所の段差が障害となっていた。
これらの課題に対して市は、「バリアフリー化」「平時・イベント時ともに使いやすい空間」をテーマに改修を実施。改修設計を担当した大日本コンサルタント執行役員・技術統括部の松井幹雄副統括部長は、「駅前は多くの人が日常的に使う場だ。設計者の意図が前面に出過ぎない、極上の“普通の空間”を目指した」と語る。
10年前に耐震改修を終えていたので、今回の改修では構造躯体をそのまま生かした。ただし、吹き抜けの一部を塞いで増床する他、新たに石のベンチを配置することを計画していた。これらの荷重増をどこかで相殺する必要があった。
荷重軽減と段差解消の両立を図って採用したのが浮き床だ(図2)。改修前のタイル舗装は路面の高さを調整するため、最大厚さ200mmの調整コンクリートを敷設していた。これを排水勾配を残して撤去。浮き床の高さを10~700mmの間で細かく調整し、可能な限り段差を解消した。
設計協力者としてデザインを担当したGK設計都市環境デザイン部の西元咲子シニアディレクターは、次のように話す。「段差や植栽で暗く小さく分節していた空間を、できるだけ一体的にまとめた。イベント時に使いやすく、かつデッキ全体ににぎわいが広がるようにした」
最も広い空間を確保できる北東側は人工芝の広場とした。既存躯体が支障となり西側と南側の通路との間に一部、段差が残ったが、歩行空間との高さの違いは、座ったときに落ち着いて過ごせる効果を期待できる。
歩行の邪魔にならないよう照明柱の基礎は床下に隠し、休憩しやすいようデッキ上には延長約140mの石のベンチを張り巡らせた。既存階段はエスカレーターに更新した(図3)。
集う人の多さや自由なふるまいが普段使いに合った空間への変貌を示していた。