視点場で見え方が変わるライトアップ
富士山麓に位置する町、金太郎生誕の町、東京五輪・パラリンピック2020の自転車競技ロードレースのゴールとなった町──。様々な異名を持つ静岡県小山町に、新たな名所が誕生した。復元した森村橋だ。
老朽化に伴い長らく通行止めとなっていた。復元を終えた今では地元住民の散策路になっている。毎日、夕方ごろになると、学校を終えた児童が集まってくる(写真1)。橋長約40m、幅員4m強の小さな橋だが、子どもたちがキャスターボードなどを使って遊ぶのに、ちょうどいい平坦なたまり場のようだ。
森村橋は1906年に造られた。国の登録有形文化財に指定されている。鋼単純下路式曲弦プラットトラスの珍しい形式を、できるだけ当時のまま復元した。腐食が激しかった格点部を除いて、建設当時の部材を約60%再利用した。
「建設時の印象を残しつつ現代の基準に合わせてデザインを変えている。当時の図面から寸法などは踏襲したが、端数が生じるため、割り付けを考えるのに苦労した」。森村橋の復元と橋詰め広場の設計に携わった八千代エンジニヤリング社会計画部の高須祐行専門部長は、こう話す。
夕方過ぎに照明が付くと、昼間の印象とはがらりと変わる(写真2)。ライトアップは一定の周期で、明滅したり色が変わったりする。橋のたもとに住む松本孝則氏は「毎日見ても飽きが来ない」と話す。
復元前の森村橋(写真3)で投光器を用いた実験を実施するなどして、照明の設置位置にこだわった。トラスの鉛直材の中には電球色、外にはフルカラー照明といったように、異なる光源を使っている。
「視点場によって違った見え方となるようにしたかった」と高須専門部長は明かす。橋軸方向から見ると、レーシングバー(鉛直材にジグザグに付いている補強材)の織り成す姿を電球色が強調する(写真4)。一方、川の流れる方向から見ると、カラー光源が橋の全体像を引き立てる。
橋を見渡せるように、橋詰め広場にはベンチを置いた。広場はイベントなどを実施できるよう広めに設定。ベンチの屋根の支柱には、橋に再利用できなかった部材を加工して使っている(写真5)。
「復元工事が終われば、文化財を保護するだけというのでは寂しい。イベントなどでの使い勝手のよさも考慮してライトアップを施した。JR御殿場線から見えるので、気に留める人は多いのではないか。いろんな人に周知していきたい」。橋や広場の設計を担当した小山町教育委員会生涯学習課の金子節郎課長補佐は、こう意気込む。