全2808文字
PR

支柱を目立たせず周辺環境になじませる

 地上約40mの高さへと上昇するゴンドラの窓の外に、ランドマークタワーやベイブリッジなど横浜ならではの景色が次々と現れた。

 横浜市のみなとみらい21(MM21)地区に2021年4月、「YOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマ・エア・キャビン)」が開業。JR桜木町駅前の広場(桜木町駅)と赤レンガ倉庫がある新港ふ頭(運河パーク駅)との間の約630mを、片道約5分でつなぐ(写真1~3図1)。遊園地でも山地でもなく、平地の港に出現した常設都市型の循環式ロープウエーだ。

写真1■ 横浜市のみなとみらい21地区に2021年4月、ロープウエー「YOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマ・エア・キャビン)」が開業(写真:安川 千秋)
写真1■ 横浜市のみなとみらい21地区に2021年4月、ロープウエー「YOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマ・エア・キャビン)」が開業(写真:安川 千秋)
[画像のクリックで拡大表示]
写真2■ 遊歩道の「汽車道」から見た「YOKOHAMA AIR CABIN」。海上支柱は白を基本に、低層部のグレーから白へと段階的に塗り分けた。できる限り目立たせず浮遊感も演出した(写真:安川 千秋)
写真2■ 遊歩道の「汽車道」から見た「YOKOHAMA AIR CABIN」。海上支柱は白を基本に、低層部のグレーから白へと段階的に塗り分けた。できる限り目立たせず浮遊感も演出した(写真:安川 千秋)
[画像のクリックで拡大表示]
写真3■ 整備前。写真右下の付近に運河パーク駅を建設した(写真:泉陽興業)
写真3■ 整備前。写真右下の付近に運河パーク駅を建設した(写真:泉陽興業)
[画像のクリックで拡大表示]
図1■ 海上支柱の配置は景観や水路に配慮
図1■ 海上支柱の配置は景観や水路に配慮
周辺施設からの景観や水上交通に配慮し、3号柱と4号柱は約200m離して配置した。桜木町駅舎はロープ(索道)に対して斜めに配置し、駅前広場をできるだけ狭めないようにした。泉陽興業の資料を基に日経コンストラクションが作成
[画像のクリックで拡大表示]

 横浜市は17年度に都心臨海部の回遊性向上を目指して新たな交通サービスを公募。MM21地区で遊園地「よこはまコスモワールド」を運営する泉陽興業(大阪市)がロープウエー事業を提案し、選ばれた。民設民営方式で、建設費約80億円は同社が負担し、運営も担う。

 設計は駅舎、索道、海上支柱基礎をそれぞれ山下設計、日本ケーブル、東亜建設工業が担当。博覧会で循環式ロープウエーを整備・運営した実績を持つ泉陽興業がプロジェクトリーダーとしてデザインを統括した。

 ロープウエーのルートは一般に、直線状に計画する。今回のルートは、公共空間の上空を活用したうえで、集客力の高い場所に駅を設けるという条件を踏まえて決定した。一部、遊歩道の「汽車道」と重なる。

 「高齢者などは移動が楽になる。従来の展望施設とは異なった、移動しながら楽しむという景色も提供できる」。泉陽興業東京支社の高島省吾専務取締役支社長は、そう説明する。

 ただし計画ルートは市との景観協議が必要な3つの地区に面していた。「各地区のガイドラインで示された『視点場』のみならず、あらゆる地点から『景観を阻害しないか』とチェックを重ねた」(泉陽興業企画開発部の山下真司部長)。

 目指したのは、周辺の街並みと融合しつつ、新たな交通としての先進性を感じさせるデザインだ。

 海上に設置する支柱3本は、部材数が少なくシンプルな形状の丸型鋼管を使うものを選んだ(図23)。一般的なトラス形状だと送電鉄塔のイメージが強く、「最先端の都市型ロープウエー」のイメージに合わないと考えたからだ。駅舎は1階の明度を抑えて2階をガラス面とし、上層部の軽やかな印象を狙った。

図2■ 景観配慮と安全性からシンプルな支柱を選択
図2■ 景観配慮と安全性からシンプルな支柱を選択
海上支柱の検討案。A案は基礎が大きくなる。B案は送電鉄塔のイメージが強い。部材数が少なく、強度的にも安定し、基礎が小さいC案を採用した。泉陽興業の資料を基に日経コンストラクションが作成
[画像のクリックで拡大表示]
海上支柱。図2のC案をベースに、できるだけ柱同士の開く角度を狭くして基礎部分の平面を小さくした(写真:安川 千秋)
海上支柱。図2のC案をベースに、できるだけ柱同士の開く角度を狭くして基礎部分の平面を小さくした(写真:安川 千秋)
[画像のクリックで拡大表示]
図3■ 支柱基礎もデザイン
図3■ 支柱基礎もデザイン
海上支柱基礎の検討案。原案は耐震レベル1だが、最終計画案ではレベル2で設計。景観に配慮して隅を丸くした。泉陽興業の資料を基に日経コンストラクションが作成
[画像のクリックで拡大表示]

 夜は、駅舎や支柱をあえてライトアップせず、ゴンドラだけがほのかに光る(写真4)。夕刻、その様子を撮影しようと多くの人がゴンドラに向けてスマートフォンを掲げていた。回遊性を高めた横浜の港に、新たな景観スポットが誕生した(図4)。

写真4■ 運河パーク駅側からの夕景。ゴンドラは最新式バッテリーを搭載し、冷房システムやLED照明に給電する。右手に見えるのは遊歩道の「汽車道」に保全した橋梁(写真:安川 千秋)
写真4■ 運河パーク駅側からの夕景。ゴンドラは最新式バッテリーを搭載し、冷房システムやLED照明に給電する。右手に見えるのは遊歩道の「汽車道」に保全した橋梁(写真:安川 千秋)
[画像のクリックで拡大表示]
図4■ 横浜都心臨海部の回遊性を高める
図4■ 横浜都心臨海部の回遊性を高める
横浜市は都心臨海部の回遊性向上を図るため、交通サービスや歩行者ネットワークの整備を進めてきた。YOKOHAMA AIR CABINの運河パーク駅と歩道橋「サークルウォーク」の間も、デッキによって2階レベルで接続。21年4月には、サークルウォークにエスカレーターを設置した。海沿いの「水際線プロムナード」では21年3月、中央地区と新港地区をつなぐ「女神橋」の供用を開始した。横浜市の資料と国土地理院の空中写真を基に日経コンストラクションが作成
[画像のクリックで拡大表示]