桁高やブラケット形状を滑らかに変化
横浜港に注ぐ大岡川の河口から100mほど上流に2020年6月、人道橋「さくらみらい橋」が架かった。橋から海側を望むと、都会らしい夜景が飛び込んでくる(写真1)。
橋は川のそばに移転・新築した横浜市役所の完成に合わせ、市が整備した。増加する歩行者をさばき、周辺の利便性や回遊性を高める。
橋の平面は、滑らかなY字形の曲線を描く。右岸側に立つ市役所の2階デッキから延びた鋼床版箱桁は、大岡川を渡った左岸側で2方向に分岐。JR・地下鉄桜木町駅方面に向けて、既存の民間ビルや歩道橋などにつながる(写真2、3、図1)。
プロポーザルを経て設計を手掛けたのは、八千代エンジニヤリングを代表とする設計チームだ。橋の架設地点の左岸側には首都高速横羽線のトンネル、すぐ上流側には半世紀ほど前に完成した国道133号の弁天橋が近接する。「与条件が厳しく、協議先も多い。設計の条件が途中で変わることもあり得ると考え、変更に対応しやすい箱桁構造を提案した」。同社名古屋支店道路・構造部の水津紀陽部長はこう振り返る。
全体の意匠を担当したのはイー・エー・ユー(東京都文京区)。「周辺は夜景が美しい。風景を引き立てるシンプルなシルエットにした」と同社の西山健一取締役は話す。
シンプルさを際立たせるディテールには徹底的にこだわった。
大岡川をまたぐ「経路A」区間は河川内に橋脚を建てられず、約70mの支間を飛ばすために桁高を2m確保しなければならない。一方、「経路B」と「経路C」の区間は支間が短く、桁高は1.5mで済む(図2)。
「幅員も桁高も異なる3経路の橋を1つの構造物として風景になじませることがデザイン上の課題だった」(イー・エー・ユーの田辺裕之氏)。桁高を滑らかに変化させると同時に、箱桁から左右に張り出すブラケットは桁高変化や曲線線形に合わせて大きさや取り付け角度を変え、橋の一体感を高めた。
経路ごとに異なる橋上の屋根形式も、連続性を重視した。川への眺望が開ける経路Aは、屋根柱を橋面の中央部に集約。高欄のそばに柱を設けず、川の上下流方向へ視界が抜けるようにした(図3、写真4)。
一方、幅員が狭くビルの横を抜ける経路BとCは、柱を橋面の片側に寄せた。「経路B・Cの片持ちの屋根柱が自然に合流したように、経路Aには2本の柱を立てた」と屋根の構造設計を担当したKAP(東京都千代田区)の岡村仁代表は話す。「キール」と呼ぶ長手方向に屋根を支える梁も、同様に合流するイメージでデザインした。