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 計1266本のヒノキ材が壁高欄をすっぽり覆った独特な橋が、山口県岩国市に誕生した。ヒノキ材の醸し出す柔らかな雰囲気と、橋に近づくにつれて見え方が変化する力強さが同居している。2018年の西日本豪雨で被災し、県が新たに架け替えた「久杉橋」だ(資料1)。

資料1■ 西日本豪雨の被災を経て、2022年7月に架け替えた「久杉橋」。建築家の隈研吾氏がデザインした。県産のヒノキ材を使用している(写真:生田 将人)
資料1■ 西日本豪雨の被災を経て、2022年7月に架け替えた「久杉橋」。建築家の隈研吾氏がデザインした。県産のヒノキ材を使用している(写真:生田 将人)
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 ヒノキ材のデザインは、建築家の隈研吾氏が手掛けたもの(資料2)。橋を設計した大日本コンサルタントと共に、木とコンクリートを組み合わせた橋づくりに挑んだ。

資料2■ 右岸側。旧橋になかった歩道部を下流側に設けた。橋を渡りながら木に触ったり、写真を撮ったりする人たちを多く見かけた。橋長20.8m、支間長19.9m、有効幅員6.5m。PC(プレストレストコンクリート)単純プレテンション方式中空床版橋だ(写真:生田 将人)
資料2■ 右岸側。旧橋になかった歩道部を下流側に設けた。橋を渡りながら木に触ったり、写真を撮ったりする人たちを多く見かけた。橋長20.8m、支間長19.9m、有効幅員6.5m。PC(プレストレストコンクリート)単純プレテンション方式中空床版橋だ(写真:生田 将人)
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 久杉橋は、日本酒「獺祭(だっさい)」を製造・販売する旭酒造の本社(岩国市)と直売所をつなぐ位置に架かる。同社は過去に直売所を設計した隈氏に、久杉橋のデザイン監修を依頼。総工費3億7000万円のうち、修景化に伴う費用として2億円を同社が負担した。

 旧久杉橋は1954年に県が構築した。橋長15mの鉄筋コンクリート(RC)造だ。西日本豪雨で土砂や流木のほか、流失した橋桁が押し寄せて桁や高欄が変形(資料3)。県は旧橋の原形復旧が困難と判断し、新たな橋に架け替えることにした。

資料3■ 西日本豪雨で土砂や流木が押し寄せて被災した旧久杉橋(写真:山口県)
資料3■ 西日本豪雨で土砂や流木が押し寄せて被災した旧久杉橋(写真:山口県)
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 架け替え計画を知った旭酒造の桜井一宏社長は、地元自治会と共に、隈氏のデザインを盛り込んだ橋の修景化を県と岩国市に要望。修景化に伴う費用を負担する考えも示した。

 「旧久杉橋は地域にとって“血管”のような大切な存在。渡る機能だけではなく、災害復興の象徴となるような橋に再生したいと考えた」(桜井社長)

 県、市、旭酒造の3者は19年3月に「久杉橋の復旧事業に関する覚書」を締結。「橋梁復旧工事は県、デザインを盛り込むことによる工事費などの増額分は旭酒造、完成後の維持管理は市が担当することで合意した」(県土木建築部道路整備課の正木啓一整備班主任)