死者・行方不明者200人超という平成最悪の豪雨災害となった「平成30年7月豪雨」。台風7号と停滞した梅雨前線の影響で、普段は雨が少ない瀬戸内地域をはじめ西日本の広範囲で観測史上最大の降水量を記録した。住宅地に流れ込んだ大量の土砂や河川堤防が決壊した原因を探るとともに、堰堤の整備や避難計画などに盲点はなかったか考える。

西日本豪雨の衝撃
土石流や堤防決壊が無数に発生、超広域災害の検証急げ
目次
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観測史上最大の雨が各地に爪痕
断続的かつ長時間の降水で山や川に被害
台風7号による暖かく湿った空気で梅雨前線の活動が活発になり、積乱雲が次々と生まれる「バックビルディング現象」が各地で多発。複数のピークを持つ大雨が長時間続いたことで、土石流や斜面崩壊が発生したほか、河川氾濫など様々な被害をもたらした。
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「同時多発」土石流で砂にのまれた集落
砂防堰堤が決壊、15人が死亡した「陸の孤島」を歩く
土石流が多発した広島県坂町小屋浦地区。広島湾に面する人口約1800人の集落だ。砂防堰堤を破壊し、同地区を襲った土石流は家屋をなぎ倒したうえ、大量の土砂を市街地に運んで復旧を困難にした。日経コンストラクション記者は7月14日、現地に入った。
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沢出口の宅地を土石流が直撃
警戒区域の指定は進むも避難行動に結びつかず
西日本豪雨による土砂災害は1道2府28県で合計1464件。過去10年間の平均年間発生件数1106件を大幅に上回った。土砂災害による死者数も平成最悪の118人に上る(7月30日時点)。群を抜いて甚大な被害が発生したのが広島県だ。
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孤立と闘った町を行く
ビーチの駐車場に迂回路を通して仮復旧
複数の土砂災害で周辺の市町とつながる主要道路や鉄道が寸断され、孤立状態が続いた広島県呉市。人口20万人以上の中核市で起こった異常事態だ。生き残った道路では大渋滞が発生し、給水車の到着もままならない。当初は被害の状況も十分に伝わってこなかった。
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山腹崩れて構造物を破壊
対策施すも被害免れず、斜面の安全確保が焦点に
西日本高速道路会社の管内では、道路脇の切り土法面が崩落するなど49カ所で被害が発生。最大で2299kmが通行止めとなった。
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堰堤整備に工夫の余地あり
河川との連携や小規模渓流対策で多様な備えを
各地で無数に発生した土石流や斜面崩壊。多くの死者を出し、対策にはまだハードとソフトの両面で課題があることを突き付けた。
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「バックウオーター」の連鎖で壊滅
水害リスク大の地形と降り続く雨が被害を拡大
50人を超える死者が出た岡山県倉敷市真備町。本流の河川の水が支流に回り込む「バックウオーター現象」が生じ、堤防が決壊。合流部に位置する町の大半が水没した。小田川のさらに支流でも同様の現象が生じたことが明らかになっている。
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わずか5分前の避難指示で死者
生かされなかったホットライン
愛媛県南西部を流れる肱川(ひじかわ)では、上流の野村ダムが緊急放流を実施し、西予市で広範囲にわたる浸水被害が発生した。その下流の鹿野川ダムでも緊急放流して大洲市で大規模な氾濫が起こった。
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雨上がりの町を襲った濁流
盛り土崩壊をきっかけに毎秒100tの泥水が流下
豪雨が過ぎ去り、避難勧告などが解除された後に時間差で被害をもたらすケースもある。広島県府中町を流れる榎川では、満水に近かった水位が下がり、住民が普段の生活を取り戻そうとした矢先に突如、晴天にもかかわらず氾濫した。
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「逃げる人」を増やすには
避難者わずか0.3%、情報発信が後手に回ったケースも
200万人に避難指示を出したものの、避難所に足を運んだのはわずか6000人──。各地で甚大な被害が出た広島県の7月6日午後10時30分の状況だ。避難者の割合は0.3%にとどまった。情報を受けていなかったり、「自分は大丈夫」と思ったりした住民が多かったと考えられる。いくら早い段階で避難情報を発令して…