1906年に造られたトラス橋の解体・復元工事で、仮設トラスと既設・復元トラスとを重ね合わせる珍しい工法が取り入れられた。既設トラスの部材切断時に解放される応力の影響を最小限に抑えるため、協力会社が提案した「W切り」を採用して乗り切った。
応力解放のソフトランディングを実現させた「W切り」
静岡県小山町で、意匠性の高いトラス橋の架設が進んでいる(写真1)。1906年に建設された鋼単純下路式曲弦プラットトラス形式の「森村橋」の復元現場だ。その場で補修や塗装を施すのではなく、解体して工場で修理した後に架け直す。
通常は、下に設置した仮設のベントに橋の荷重を預けて、応力を解放した状態で解体する。ところが、この現場では河川協議などの結果、ベントを構築できなかった。そこで施工者のIHIインフラシステムが提案したのが、仮設トラスを使った解体・組み立て方式だ(図1、2)。









まずは、森村橋(既設トラス)の補強材や鋼床版を撤去して自重を減らし、既設トラスの部材に仮設トラスを合成しながら組み立てる。次に一体化したトラスから既設部材だけを切断して解体(写真2)。そして今度は逆に、復元した部材を仮設トラスにつないで組み立て、最後に仮設トラスを撤去する。
森村橋の現場で、現場代理人を務める同社建設部工事第1グループの大谷恵治主査は言う。「トラスにトラスを合成させながらの解体・組み立ては、経験がない。荷重移行と応力解放の繰り返しで難度が高かった」
切断で想定以上の衝撃と振動
中でも大谷主査を悩ませたのが、既設トラスの解体だ。既設と仮設が一体となった合成トラスから、既設トラスの部材を徐々に解体して、仮設だけでの支持に移行する。解体では、鋼部材に熱を加えてあめ状にしながら、限界まで延ばして切断する方法を採用。既設トラスの応力を徐々に減らすことにした。
ところが、最も影響が小さいはずの初めの切断時に、現場に緊張が走った。想定以上の衝撃と振動で、吊り足場が大きく揺れたのだ。
「部材を切断すると、残った部材に応力が徐々に移行していく。最後に切断する部材の引張力は、最初と比べて7倍以上になる見込みだった。解析では問題がない値とはいえ、最後にどのような衝撃になるか怖かった」。現場を支援する同社建設部計画第1グループの小松原和也氏は、こう振り返る。
そんなとき、この懸念を払拭する提案が、架設に従事する協力会社の松和工業(堺市)からあった。全断面を一気に切らずに半分ぐらいで止めて、次にその両側の断面を反対側から切る方法だ。切断中の部材の様相から、「W切り」と名付けられた(写真3)。
「切れ目を入れた部材が弾性変形で延びて、どんどん応力が減る。部材は最終的に、音もせずに静かに切れる」と大谷主査は話す。
他方、復元したトラスを組み立てた後の仮設トラスの解体では、別の方法を採った。ジャッキの上げ下げで復元トラスを先に支持して、仮設トラスの応力を解放。スムーズな解体につなげた。