蛇行する河川に沿って、“地下河川”を施工する珍しい事業だ。曲率半径16mを含む急曲線施工が最大の難所とみていたものの、施工上最も苦労したのは想定外の地山の硬さによる掘進の停止だった。治水効果を早期に発揮させるため、1次覆工のみで暫定供用し、浸水リスクを下げた。
鋼製セグメントによる1次覆工で暫定供用
福岡県筑紫野市の市街地を流れる高尾川の直下に、長さ約1km、外径6mのシールドトンネルを施工している。増水時にバイパスとしての機能を持つ地下河川となる。
高尾川の川幅は約7mと狭く、幾重にも蛇行している。そのため、トンネルは全長の約5割が曲線を占める。中には曲率半径が16mに及ぶ区間もある(写真1、2)。河川の線形に沿ったシールドトンネルの連続掘進は、あまり例がない。
河川管理者の福岡県は2012年から下流で合流する鷺田川を含む延長2.1kmを対象に河川改修を進めていた。ただし市街地のため、河川拡幅は用地取得に時間を要する。14年8月の集中豪雨で7.4haの浸水被害が生じたことから、急きょ事業計画を見直した。翌年、未改修だった上流側の約1kmの区間に地下河川を整備する高尾川床上浸水対策特別緊急事業に着手したのだ(図1)。
18年8月に掘進を開始したシールド機は、20年4月に到達。同年6月から地下河川として暫定供用を開始した。工事を発注する福岡県那珂県土整備事務所災害事業室の火山太室長は、「事業着手から5年で供用できた。元の計画では、10年たっても浸水対策は完了していなかったかもしれない」と話す。
トンネルの1次覆工には、曲線区間を中心に鋼製セグメントを使用している。コンクリートによる2次覆工を施したうえで供用するのが一般的だが、この現場では掘進完了からわずか2カ月で、1次覆工のまま供用した。その後、4カ月間で合計26回、地下河川が使われた(写真3)。出水期を終えて内部にたまった土砂などを清掃した後、2次覆工の工事に改めて着手。21年の出水期からの全面供用を予定している。