熊本県の球磨川では、2020年7月豪雨で流失した10橋の災害復旧工事が直轄権限代行で進む。中でも八代市にある鎌瀬橋の工事現場では、施工ヤードの不足や急流下での杭打ちといった課題を克服。現場の本格稼働から、わずか4カ月で仮橋が架かろうとしていた。
支持杭の打ち込みや施工ヤードの確保に苦心
熊本県南部を中心に甚大な被害をもたらした2020年7月豪雨(令和2年7月豪雨)。球磨川の増水で分断された道路を一刻も早くつなげるため、国土交通省は権限代行で災害復旧事業を実施している。熊本県八代市にある鎌瀬橋の仮橋の架設現場で21年3月、現場の本格稼働から4カ月で工事が佳境を迎えていた(写真1、2)。
流失前の鎌瀬橋は橋長113.2m。構造形式は鋼単純アーチと鋼2径間鈑桁だった。仮橋には鈑桁タイプの組み立て橋を採用する。下部工には流されなかった橋脚を利用した。ただ、1径間の長さが73mのアーチ部分は、仮設の鈑桁で飛ばせない。そのため、12本のH形鋼から成る仮の橋脚を2基建設する必要があった。
「日本三大急流」の1つである球磨川の流れは非出水期でも速く、仮の橋脚の建設位置は水衝部に当たるため深い。そのため、H形鋼の支持杭の施工には苦労した。
「水深が大きく、ボーリング用の簡易足場を設置できなかった。水位を測りながらH形鋼を打たざるを得なかった」。鎌瀬橋の仮橋工事で、監理技術者と現場代理人を務める髙野組(熊本県八代市)土木部の平岡敏博副部長は、こう話す。
河床部の岩盤での削孔にもてこずった。「川の中が見えず削孔しようとすると切り立った岩にはじかれて大変だった」と、仮設工事を担う太洋ヒロセ(福岡市)の施工部施工1チームの光井照正係長は振り返る。
削孔に必要な機械が振れるのを防ぐため、通常はガイドを1つだけ用意する。だが、この現場ではこれとは別に仮設のガイドを製作(写真3)。2重の振れ止め装置を採用することで、正確な位置への削孔を可能にした。
さらに、球磨川の急流がH形鋼の施工を遅らせた。当初、ダウンザホールハンマーで河床を削孔して、H形鋼をバイブロハンマーで打ち込んでいたが、削孔しても杭を打つ前に土が入り込んでしまい、計画していた深さにまで到達できなかった。
そこで、施工者はケーシングの併用を提案。周りの土の崩れをケーシングで防いで、2次掘削でさらに掘り下げながら杭を打ち込んだ(図1)。1日に1本ずつ打つ予定が2日に1本とペースダウンしたが、無事に杭の施工を終えた。