JR上越線と国道17号を見下ろす重さ1040tの岩塊をグラウンドアンカーで地山に固定する。落石対策として類を見ない規模だ。高さ16mの一枚岩には多数の亀裂が入り、崩落の危険があった。亀裂拡大を防ぐため、振動を最小限に抑えながら施工した。
コアドリル併用で亀裂拡大を1mmも許さず
およそ100m下方に利根川を望む山の急崖に掘削音が響き渡り、ロータリーパーカッションドリル(RPD)の刃先が巨大な岩塊の奥深くを掘り進めていく(写真1、2)。
現場は群馬県内のJR上越線と国道17号に面した山の中。斜面に張り付く約1040tの巨岩を21本のグラウンドアンカーで地山に固定する工事だ。岩の表面から24m程度の深さまで削孔してPC鋼材を差し込み、各50tの力で緊張する。落石事故を防ぐためにJR東日本が発注し、東鉄工業が受注した(写真3)。
岩塊は通称「13号タワー」と呼ばれる高さ16m、幅5mの一枚岩で、斜面から最大8mほど突き出ている。安山岩から成る現場一帯には大小多数の亀裂が存在し、岩塊と地山の間にも最大幅60cmの亀裂があった(写真4)。
最大の懸念は削孔時の振動だ。振動で岩塊の亀裂が拡大し、落石事故につながる恐れがある。そこで、岩塊の削孔にはコアドリルを使うことにした。円筒形の刃先が回転して岩塊をくりぬくので、20デシベル程度のわずかな振動しか生じない。
アンカーの削孔で一般的なRPDは、ドリルの刃先が回転しながら掘削面を打撃して破砕する。短時間で施工できる半面、岩塊が70~80デシベルで振動してしまう欠点があった。岩塊はコアドリル、刃先が地山に達してからはRPDと使い分けて施工した(写真5)。
2つの機材を併用した結果、アンカー1カ所当たりの削孔は平均5日を要し、RPDだけで施工するより1日長くかかった。東鉄工業の浅川浩隆所長は、「何がきっかけで亀裂が進展するか予測できない。リスク低減が最優先課題だった」と振り返る。
一方、工期が長くなればその分、地震の発生など落石リスクが増えてしまう。同社はアンカーの定着方式を、当初設計の吹き付け法枠方式から支圧板方式に変更することも提案。コストの上昇と引き換えに、施工期間を短縮した。
工事中は、岩塊と地山の間の亀裂幅を常時モニタリングした。管理値を1mmに設定して、異常を検知した場合はすぐに調査や対策に取り掛かる。結局、削孔時の対策などが功を奏し、2019年3月の竣工まで亀裂幅に変化が生じることはなかった。