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乗降客数が10万人を超える大型鉄道駅の目の前で、リニア中央新幹線の地下駅構築に向けて85万m3に及ぶ大規模な開削が進む。支保を減らすことで、大型重機を投入。掘削と構造物構築の効率を高めている。

 切り立った掘削面同士が約50m離れて向かい合う現場は、まるで船のドックの底のようだ(資料12)。

資料1■ リニア中央新幹線神奈川県駅(仮称)の建設現場。写真奥に見える支保は工区のうち名古屋寄りの端部。それより手前の傾斜した掘削面には支保がなく、乾燥を防ぐモルタルを吹き付けているだけだ(写真:大村 拓也)
資料1■ リニア中央新幹線神奈川県駅(仮称)の建設現場。写真奥に見える支保は工区のうち名古屋寄りの端部。それより手前の傾斜した掘削面には支保がなく、乾燥を防ぐモルタルを吹き付けているだけだ(写真:大村 拓也)
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資料2■ 開削現場を品川方面に眺める。写真左奥の建物は橋本駅に隣接する複合商業ビル。架空線が工事に影響を与えないよう、一部の鉄塔を事前に移設した(写真:大村 拓也)
資料2■ 開削現場を品川方面に眺める。写真左奥の建物は橋本駅に隣接する複合商業ビル。架空線が工事に影響を与えないよう、一部の鉄塔を事前に移設した(写真:大村 拓也)
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 JR横浜線と京王電鉄相模原線の橋本駅(相模原市)の目の前で市街地であるにもかかわらず、総掘削量85万m3に及ぶ大規模な開削工事を実施している。JR東海がリニア中央新幹線神奈川県駅(仮称)の地下構造物を構築するため、掘削している現場だ。奥村組と東急建設、京王建設で構成するJVが工事を進める。

 現場はもともと、農業系学科を有する県立高校があった広い敷地。神奈川県の協力を得て、その跡地全域を工事エリアとして使っている。

 神奈川県駅では駅の前後に接続するシールドトンネルが周辺の上下水道や地下道に影響しないよう、駅のホーム階を地下深くに設ける。地上からの連絡通路や改札などの施設を収容する鉄筋コンクリート製の構造物は延長約680m、幅最大約50m、高さ約30mに及ぶ(資料3)。

資料3■ 駅隣接のスペースを生かして開削の支保を減らす
資料3■ 駅隣接のスペースを生かして開削の支保を減らす
工事の断面イメージ(出所:JR東海)
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 一般的な都市部の開削工事は敷地周辺に構造物が近接し、施工ヤードが限られる。そのため、垂直の土留め壁を構築し、内側に支保を設けることが多い。重機の大きさや移動範囲が切り梁によって制約を受け、掘削効率を高めるのが難しい。

 この現場では先述したように十分な施工ヤードを使えたため、JR東海が地質条件を踏まえて、工区の大部分で通常よりも支保を減らした開削方法を採用した。

 地表付近から地下15~17mまでは固く締まった地質のローム層が堆積。地下水位は地上から深さ23~27mとより深い。そこで、ローム層の範囲では70度の勾配で掘削して切り梁を設けなくても安定する構造とした。ローム層よりも深い位置にある砂れき層の範囲でも、土留め壁をアンカーで固定しながら段階的に掘削し、内側の施工スペースを開放した(資料4)。

資料4■ アンカーを打設する様子。砂れき層の土留め壁を押さえる(写真:大村 拓也)
資料4■ アンカーを打設する様子。砂れき層の土留め壁を押さえる(写真:大村 拓也)
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 大型重機が縦横無尽に動き回る空間を用意したうえで、地上からの斜路も設置。大型の重機が直接乗り入れられるようにした。

 2023年3月下旬の取材時は、バケットの容量1.4m3のバックホー1台が、次々とやってくるダンプトラックに土砂を積み込んでいた。支保が多い場所で一般的な0.25m3級の機種に比べて、オペレーター1人当たりの作業量は格段に多い。