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イエローゾーン認知も避難せず

 土砂災害は豪雨による水害と比べると、危険な場所の明示が進んでいる。土砂法に基づいて、住民の生命に著しい危害が生じる恐れのある区域を指定した土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)では、建築物の構造規制や開発行為に対する許可制の実施など、私有財産に踏み込んだ制約を課す。それだけにレッドゾーンに対する危険性は理解されやすい。

 一方、問題はイエローゾーンだ。土砂法では「生命に危害が生じる恐れのある区域」として災害の蓋然性を示して避難体制を充実させているが、レッドゾーンに比べるとどうしても甘く見られがちだ。

 西日本豪雨で土砂災害に巻き込まれた神戸市灘区の篠原台は、まさに住民がイエローゾーンのリスクを甘く見ていた事例の1つ。同地区を襲った土石流は、道路を伝って集落を埋め尽くした。イエローゾーンの範囲と一致する(写真1、図2)。幸いなことに犠牲者はいなかった。

写真1■ 西日本豪雨によって、神戸市灘区篠原台で発生した土砂災害。砂分の多い土砂が住宅街に流れ込んだ (写真:釜井俊孝・京都大学防災研究所教授)
写真1■ 西日本豪雨によって、神戸市灘区篠原台で発生した土砂災害。砂分の多い土砂が住宅街に流れ込んだ (写真:釜井俊孝・京都大学防災研究所教授)
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図2 ■ 神戸市灘区篠原台付近の土砂災害情報と地価
図2 ■ 神戸市灘区篠原台付近の土砂災害情報と地価
神戸市や資産評価システム研究センター、砂防学会などの資料を基に日経コンストラクションが作成
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 ただし、同地区を調査した京都大学防災研究所の釜井俊孝教授は、「砂ばかりの段丘れき層が崩壊したために道路などが埋まるだけで済んだが、広島の土砂災害のように花こう岩が風化したものが崩れていれば多くの犠牲者が出ていたはずだ」と指摘する。危険な場所であったことは間違いない。

 被災後に地元の新聞社が実施したアンケートでは、7割の世帯がイエローゾーンに指定されていることを知っていたという。にもかかわらず、多くの人は避難しなかった。警戒区域の危険性を自治体は警告していたつもりだが、当の住民はそう思っていなかったということだ。