地価を下げると訴訟の恐れ
災害リスクによる減価率を、今より上げる手も考えられなくはない。不動産鑑定士などが地価を決める根拠として参考にする国交省の土地価格比準表によると、洪水や地すべりなどの危険性が高い場所はそうでない所と比較して、最大で5%の価格差を付けることが可能だ。逆に言えば、それ以上は差を付けることができないわけだ。
「住民からの訴訟の恐れがあるため、災害リスクのある場所を根拠無く大幅に減価するのは難しい」。不動産鑑定士で、土砂災害と土地評価の関係に詳しい内藤事務所の内藤武美代表取締役は、こう指摘する。
実際に大きな被害を受けると、さすがに地価は下落する。ただし、数年たつと下げ止まる例も多数、報告されている。
例えば、14年8月に広島市安佐南区で起こった土石流災害。10人以上が亡くなる大惨事となった緑井地区では、標準地の公示価格が翌年に10%程度減少したが、その後、上流部での堰堤や都市計画道路の整備に伴い、安全性や交通利便性の向上が見込まれたことで、17年からは増加に転じた(図3)。時間がたてば災害の記憶は薄れるため、被災地で新たな開発が進む可能性も否定できない。