「この堤防は1947年のカスリーン台風の時も決壊したんだよ。壊れる場所はいつも同じだね」
2019年10月の台風19号で破堤した現場で、居合わせた近隣の住民がこんな話を聞かせてくれた。付近では決壊に至らなくても、数年から十数年に1回の頻度で越水による浸水被害が起こっていると言う。
「繰り返し被災する理由は何かあるのですか」と尋ねると、住民は迷わず答えた。「ここは昔、川が流れていた場所だから」。筆者が後で国土地理院の地形分類図を調べると、大きく蛇行した旧河道が決壊地点で堤防と交わっていた。
盛り土して造った堤防の周囲を見回すと、住宅地側の裏法面に大きくえぐられた箇所が複数あった。増水で堤防を乗り越えた水が裏法面を浸食したのだろう。水を集めやすい旧河道に位置することを考えると、堤体や基礎地盤に水が浸透して弱くなった可能性も考えられる。
土木技術者ではない住民でさえ知っていた破堤の理由と被害のリスク。なぜ、事前に対策を打てなかったのかと悔やまれる。「堤防を直したのだけど、また壊れちゃった」。住民の諦め顔が忘れられない。