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娯楽である観光で、タブー視されやすいのが「負の歴史」の伝承だ。インフラツーリズムも例外ではない。ただし、負の側面も捉え方次第では、観光をプラスに導く。災害・公害の跡地などを巡る旅である「ダークツーリズム」に詳しい井出明・追手門学院大学客員教授に、インフラを見せる際に必要な視点を聞いた。

インフラとダークツーリズムの関係性について教えてください。

 ダークツーリズムは、「近代の限界や反省」が軸です。シビルエンジニアリングは近代の文明そのもの。土木を批判的に捉えて、ダークツーリズムの観点からインフラを巡ることは、非常に意義があると思います。

 例えば、工事によって環境が破壊された場所があれば、それを見に行くというのは、次世代の土木を考える上では重要です。

旅行会社などからは、「ネガティブな視点」での観光商品化は難しいという話を聞きます。

写真1■ 幻冬舎から2018年7月に発売した「ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅」。著者は井出氏(写真:日経コンストラクション)
写真1■ 幻冬舎から2018年7月に発売した「ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅」。著者は井出氏(写真:日経コンストラクション)

 ダークツーリズムは、人類の影の歴史を勉強するという重いイメージを持たれがちですが、決してそうではありません。私の拙著「ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅」(写真1)を読めば分かると思いますが、割と気楽な旅です。

 重要なのは、現地に訪れる導入部のハードルを下げることです。楽しい話に、悲しい、重たい真実を少しだけ織り込む。そうすることで、かえって本質が見えるようになります。

「導入部のハードルを下げる」とは、どんなことでしょうか。

 群馬と栃木と埼玉の「3県の県境」に行ったことはありますか? 3県を3歩でまたぐことができる場所です。皆、初めは珍しいもの見たさに訪れるのですが、現場に行くと近代の負の側面が見えてくる。

 明治後期に、3県の県境付近に流れていた渡良瀬川は氾濫が多く、上流から足尾銅山の鉱毒が流れて農作物に被害が生じていました。3県とも後始末を押し付けあって、県境は100年ほどあいまいなままだったといいます。

 現地を見て「なぜこうなったのか」という疑問が湧けば、近くの道の駅に関連する展示があり、すぐに見に行ける。問題をより追究したい人には、近くの渡良瀬遊水地(写真2)や足尾銅山にアクセスできるように、パンフレットを置いてあります。

写真2■ 足尾鉱毒事件に対応するために造られた渡良瀬遊水地(写真:井出明・追手門学院大学客員教授)
写真2■ 足尾鉱毒事件に対応するために造られた渡良瀬遊水地(写真:井出明・追手門学院大学客員教授)
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 初めから「勉強してください」という触れ込みでは、誰も来ません。珍しい写真が撮れるから行ってみて、行ったら深い歴史を知れたという程度でよいのです。写真映えする建造物がある土木や建築は、現地へ足を運ぶためのモチベーションも高くなる。そこを生かせばよい。