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くまがい・つばさ
くまがい・つばさ
1983年茨城県生まれ。東北大学大学院で土木工学を修了し、2009年4月に大成建設入社。都市土木設計室で3年間、地下構造物などの設計に従事する。その後、小田急電鉄の複々線化事業に約6年間携わり、工程調整や工事計画の作成で活躍。現在は都市土木設計室に戻り、鉄道トンネルの耐震補強工事の設計などを担当する(写真:日経コンストラクション)
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 刻々と変化する工事の工程を見通すには、豊富な現場経験が欠かせない──。大成建設の熊谷翼氏は設計部門で得た経験を存分に生かし、そんな常識を覆した。20代で配属された初めての現場で、約6年に及ぶ難工事の工程を操ったのだ。「まるで複雑なパズルを解くような感覚だった」と熊谷氏は語る。

 担当は、施工ヤードなどを共有する2つの鉄道工事の工程調整だった。1つは、小田急電鉄が東京都内で進める代々木上原―梅ケ丘間の連続立体交差・複々線化事業で、下北沢駅付近に開削トンネルを掘る工事。もう1つは、その上空で施工する京王電鉄の橋桁の架け替え工事だ(写真1図1)。いずれも大成建設を筆頭とする5社JVが受注したが、発注者が異なるので現場事務所は別。熊谷氏の配属は小田急の工事だった。

写真1■ 小田急電鉄の開削トンネル完成式。複々線化事業は、2019年3月までに全ての工事を完了した。元請けは大成建設・前田建設工業・西松建設・銭高組・三井住友建設JV(写真:小田急電鉄、大成建設)
写真1■ 小田急電鉄の開削トンネル完成式。複々線化事業は、2019年3月までに全ての工事を完了した。元請けは大成建設・前田建設工業・西松建設・銭高組・三井住友建設JV(写真:小田急電鉄、大成建設)
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図1■ 上空と地下を電車が通る中でトンネルを掘削
図1■ 上空と地下を電車が通る中でトンネルを掘削
京王電鉄の工事と並行して掘削を進めるため、開削トンネルは最初に天端コンクリートを打設した。開削トンネルの下にあるシールドトンネルは小田急の事業の1期工事として、大成建設JVが施工。2期工事に当たる開削トンネルでは、シールドトンネルのわずか60cm上まで掘削した。シールドトンネルを急行電車が走り、開削トンネルを普通電車が通る。小田急電鉄の資料を基に日経コンストラクションが作成
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 事業を最短で終えるため、2つの工事は同時並行で進める必要があった。重機や資機材の設置などで施工ヤードを共有する両工事の工程は、密接に関係する。それぞれが厳しい工程で工事を進める中、施工ヤードの利用や工事の優先順位などを巡り、両者の意見の衝突は少なくなかった。

 そこで熊谷氏の登場だ。毎週のように両工事の担当者と工程を打ち合わせて意見をすり合わせた。しかし、あちらを立てればこちらが立たず。当然、互いに譲れない問題が生じる。「どうしても収拾できないときは、小田急の工事を優先した場合と京王の工事を優先した場合で、それぞれの施工ステップ図を描いて課題を明確にした」(熊谷氏)。1年先の計画まで描き起こしたこともある。

 施工ステップ図とは、設計図に重機や資材、作業員の配置計画といった施工に必要な情報を記載したものだ。熊谷氏が施工ステップ図をまとめた結果、一方の主張だけを受け入れると、将来、必要な機材を配置する際、先に構築した構造物に干渉するといった問題が生じると発覚。図面を根拠に両者の譲歩を求め、工程を詰めていった。