一般の河川堤防は計画高水位以下での安全性確保を目指す。だが、近年は大雨が頻発。越水を無視できなくなった。越水に耐える堤防が、スーパー堤防だ。
越水によって堤防が決壊するのは、そもそも通常の堤防が越水を想定した構造ではないからだ。しかし、越水に抵抗できる構造の堤防は存在する。高規格堤防だ(図1)。一般にはスーパー堤防と呼ばれている。現在は江戸川、荒川、多摩川、淀川、大和川の5河川、延長120kmの範囲で、国土交通省が事業を進めている。
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計画区間の周囲は、浸水後に水が引きにくいゼロメートル地帯となっているうえに、都市機能が集積するなど、堤防決壊時の被害が人命や国の経済に甚大な影響を及ぼす地域だ。このような地域特性を考慮して、導入が決定された。
スーパー堤防が持つ防災性能で、通常の堤防と異なる点は大きく3つある(図2)。1つは越水に対する抵抗性が高い点だ。堤防の幅が堤防高さの30倍程度に及ぶので、裏法側の勾配が緩くなって、堤防を越えた水は緩やかに流れる。その結果、法尻での侵食などを防げる。広いエリアで高台のように構築された堤防の上には住宅などの建物を設置できるので、密集市街地の再構築といった対策も同時に進められる。
2つ目は浸透への抵抗性の高さだ。土でできた堤防に水が浸み込んでも、堤防の幅が広ければ堤防内部の侵食などを抑制できる。残る1つは、整備時の地盤強化などによって、地震発生時の液状化被害を回避しやすくなるという点だ。
スーパー堤防に対しては、市民からの反対意見も少なくない。長距離にわたる巨大堤防は、規模とコストが極めて大きく、十分な効果を発揮するまでの整備には膨大な時間がかかるからだ。しかも堤防は線として機能するインフラなので、スーパー堤防を整備できない区間が残れば、そこが弱点になりかねない。
実際に基本的な断面を整備できているスーパー堤防の延長は、19年3月末時点で計画の3%ほどにとどまっている。そのため、非現実的なインフラともみなされがちで、実現性や効果を疑う意見が出やすいのだ。
これに対し、国交省は一部の区間だけでもスーパー堤防で一定の高さを持つ土地を確保できるメリットを説く。「浸水時に避難場所となるだけでなく、越水が収まった後に堤防伝いに安全な場所に避難しやすいという利点もある」(国交省治水課流域減災推進室の中須賀淳企画専門官)
この点を踏まえると、スーパー堤防は堤防というよりも「高台まちづくり」の基盤と捉えた方が分かりやすい。堤防という部分が前面に出れば線としての機能を期待してしまうが、まちづくりの一部と見れば、その評価や捉え方は変わってくる。