2015年に鬼怒川の堤防決壊がもたらした大規模な被害を受け、国土交通省が施策に掲げた「危機管理型ハード対策」。2020年度までに進める事業を検証した。
2020年度までに整備を終える目標で進む堤防改良がある。15年9月の関東・東北豪雨を踏まえて国土交通省が始めた取り組みだ。氾濫リスクが高くても、すぐには本格的な堤防整備ができない箇所への越水対策として打ち出した。名付けて「危機管理型ハード対策」だ。
対策の意図は決壊しない堤防に改良することではない。堤防構造の工夫によって、決壊に至るまでの時間を少しでも稼げるようにするのが狙いだ。「引き延ばし効果」を期待している。
打ち出された対策は2つある。堤防天端の保護と堤防裏法尻の補強だ(図1)。前者は約1310kmの整備目標に対して19年3月末時点で825km、後者は約630kmの目標に対して同215kmの整備を終えている。天端はアスファルト舗装、裏法尻は無筋コンクリートブロックなどによって補強する。
国交省国土技術政策総合研究所では、これらの対策が打ち出された15年12月以降、その効果を16年5月までに実験を通して検証した。ここでその内容を確認していこう。
まずは天端の保護による効果。水理実験では、幅2m、高さ1.5mの水路内に厚さ0.4mの基礎地盤を構築。その上に砂質混じりシルトの材料を用いて土を盛り、天端幅3m、高さ0.7mの堤体を築いた。天端部の表面には舗装を施した。
この模型で越水試験を実施したところ、以下のような引き延ばし効果を確認できた。
まずは舗装を越えた水が脚部を洗掘し、近接する堤体が崩れる状況が続く。すると次第に舗装部分はひさしのようになり、その長さが拡大していく。ひさしが長くなると、越流水は崖状の崩壊面から離れた位置に落ちるようになり、脚部の洗掘と堤防の崩壊が遅れるようになった(写真1、図2)。
例えば、厚さ5cmの再生密粒度アスファルトの表層と厚さ15cmの路盤を天端に施し、越流水深を約10cmと設定した場合。初期段階で崖面下部が15cm崩壊するのに要した時間は約5分だったが、その後に同等の大きさの崩壊が進む時間は20分程度に延びた。
「侵食スピードが最初に比べて4倍ほど遅れている。無対策の場合よりも天端を舗装した方が侵食を遅らせる効果を持つと判断できる」と、国総研河川研究部河川研究室の福島雅紀室長は説明する。