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越水に耐えた対策箇所も

 裏法尻については、法尻に様々な仕様の補強構造物を配し、対策を講じない場合と比べている(図3)。厚さ1mの基礎地盤に天端幅2m、高さ2m、法勾配1:1.5の堤体を作成して実験を行った。

図3■ 裏法尻を固めて時間を稼ぐ
[法尻部に平場がない場合]
[法尻部に平場がない場合]
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[法尻部に平場がある場合]
[法尻部に平場がある場合]
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裏法尻部分をブロック材などで保護する際に期待できる効果を示す。国土技術政策総合研究所の資料に基づき日経クロステックが作成

 すると、裏法尻に対策を講じない場合は、20cmの水深で10分間越水が続いた後、法尻から50cm程度堤内側で約60cmの深さで侵食した。

 これに対して、凹凸のあるブロック材を法尻から天端に向かって2mの幅で法面に配置したケースでは、最大洗掘位置が法尻側から1mほど遠ざかった。侵食深さも無対策の場合の半分程度にとどまっていた。さらに、法尻の平場部分に幅1.5mの補強ブロックを設置した場合では、侵食深さを無対策の場合の3分の1程度に抑えられた(図4)。

図4■ 平場で洗掘箇所を遠ざける
図4■ 平場で洗掘箇所を遠ざける
越流水深20cmの状態を10分間続けた場合の洗掘の状況。単位はmm(資料:国土技術政策総合研究所)
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 危機管理型ハード対策を施した箇所において、実際の越水に耐えた箇所が存在する。埼玉県を流れる都幾川の堤防だ。19年の台風19号による被災後の調査で、天端の舗装と裏法尻の補強を実施した箇所に水深約25cmの越水が認められた部分があった。

 法尻の補強部と裏法の境界部で表面の侵食は認められたものの、堤防は決壊を免れた(写真2)。「この越水地点から約5km下流では5~6時間くらいは越水していた。補強を実施した箇所でも越水に対して粘り強さを発揮していた」。国交省関東地方整備局河川部の高畑栄治河川調査官は、こんなふうに評価する。都幾川では無対策の箇所で越水による破堤が発生していた。

写真2■ 荒川水系の都幾川では、天端の舗装と裏法尻のブロックを設置した危機管理型ハード対策を実施した箇所で、台風19号に伴う越水が発生したものの、決壊を免れた(写真:国土交通省)
写真2■ 荒川水系の都幾川では、天端の舗装と裏法尻のブロックを設置した危機管理型ハード対策を実施した箇所で、台風19号に伴う越水が発生したものの、決壊を免れた(写真:国土交通省)
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 既に述べたように、危機管理型ハード対策は越流を克服する対策ではない。天端に舗装があっても堤防が破れるケースは存在する。

 2018年の西日本豪雨で決壊した小田川はその1つだ。決壊した堤防の天端には舗装が施されていた。ただし、国交省が設けた高梁川水系小田川堤防調査委員会は、天端の舗装が決壊までの時間をある程度引き延ばしたと推察。天端舗装の効果を認めている。

 天端舗装のリスクとしては、時間経過に伴う劣化が挙げられる。ひさしとして機能する構造物の強度は、経年で建設当初よりも下がっていくと考えられるからだ。このリスクは、国総研の資料にも言及されているものの、国総研は劣化の影響までは検証していない。

 国交省では、舗装の劣化については別の対応策があるとみる。福島室長はこう言う。「天端舗装は点検時に目視で表面の劣化を確認できる」

 危機管理型ハード対策はコストの面でもメリットがある。「数河川で確認したところ、天端舗装と法尻対策を両方実施する場合、直工費で1m当たり10万~30万円だ」(国交省治水課の甲斐公久課長補佐)。堤防本体を新規に施工するコストに比べれば安い。早期の対応も講じやすい。


 この越水を遅らせるための技術。国総研が検証したばかりと聞けば、さぞかし新しい対策や知見のように見える。しかし、こうした“粘り強さ”を持たせて簡単には破堤させないという考え方を取り入れた堤防構造は、国交省の前身である建設省の時代から、一部の河川で取り入れられていた。今でも、越水を考慮に入れて整備された当時の堤防は健在だ。