危機管理型ハード対策に先立ち、堤防の天端や裏法尻の保護などの越水対策を採用した堤防は、過去に建設されている。さらに一歩踏み込んだ内容で。
広島県三次市の中心地を流れる馬洗川。ここで1990年度から97年度にかけて、「アーマーレビー」と呼ぶ斬新な構造を試験的に採用した堤防が建設された。整備区間は約800mに及ぶ。今も堤防上に、その証しとなる看板が掲げられている(写真1)。
ちょうど河川が大きく湾曲したエリアで、馬洗川と同規模の支川である西城川が直角に近い角度で合流する地点だ(図1)。しかも、背後には河川を管理する国土交通省三次河川国道事務所の建物をはじめ、重要施設や住宅が近接する。この地域では、72年7月の豪雨で堤防2カ所が決壊。市街地の大部分が浸水した。
アーマーレビーの概略構造や意図は、同事務所のウェブサイトや玄関部に掲げられたパネルにも示されている(写真2、図2)。
例えば構造については、以下の旨の説明を記載している。「天端のアスファルト舗装で浸透防止と越水による侵食を防ぐ」「川裏側法面の連節ブロックや法尻部のふとんかごなどで越水流による洗掘を防止する」
約20年前に整備を終えた斬新な堤防構造の詳細を報じたいと考え、同事務所に当該区間の堤防断面を示す図面などを見せてほしいと尋ねたところ、意外な返事が戻ってきた。「詳しい図面などが見当たらない」(同事務所の稲若孝治副所長)。そのため、詳細な構造は伝えられない。だが、大まかな構造は写真1の看板に残る。裏法面を覆うようにシートや連節ブロックなどを敷設している。危機管理型ハード対策にはない手法だ。
この堤防の整備後に当該箇所で越水は発生していないという。整備後の降雨で最も規模が大きかったのが、2018年の西日本豪雨だ。
「すぐ近くで合流する江の川の尾関山の観測所よりも上流での流域平均2日雨量は、西日本豪雨の際に348mmを記録した。1972年7月の堤防決壊を伴う豪雨が351mmだった。アーマーレビー整備区間に残った痕跡を確認したところ、水位がほぼ計画高水位となる箇所があった程度だった」(稲若副所長)
越水が発生していない以上、越水に対する性能評価は難しい。それでも、アーマーレビーの整備区間では、通常の目視点検で分かる範囲において、変状などは確認されていないという。