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国土交通省は越水に対する堤防性能を複数の視点から研究した。結論は似ていたが、対応は真逆に。堤防の技術や施策を見つめ直す時機が訪れている。

 国土技術政策総合研究所が行った堤防の天端舗装と裏法尻補強の効果を確認した実験。そして、土木研究所が進めた裏法のシート張りの効果を確かめた実験(図1)。いずれの対策も越水時に破堤を遅らせる効用が認められた。

図1■ 国の機関による2つの研究は各部位の検証にとどまる
研究名称 越水による決壊までの時間を少しでも引き延ばす河川堤防天端・のり尻の構造上の工夫に関する検討 河川堤防の耐侵食機能向上技術の開発(1)
実施箇所 国土技術政策総合研究所 土木研究所
実施時期 2015年度~16年度 2006年度~10年度
目的と主な実験項目 危機管理型ハード対策の実施項目の検証
  • 天端の舗装が越水時にもたらす効果
  • 裏法尻の補強が越水時にもたらす効果
越水時の耐侵食性向上を狙った堤防技術の開発
  • 裏法にシートを設置した場合の越水時の効果(接続部の違いの比較など)
実験結果
  • 天端の舗装については、堤防の浸食に伴って舗装がひさしのように機能して、越流水が崖状崩壊面から離れた位置に着水するようになり、崩壊の進行を抑制する効果を確認できた
  • 法尻近傍では、補強した場合には洗掘が抑制され、最大洗掘深が生じた場所も法尻から離れる傾向を確認できた
  • 裏法に吸い出し防止シートを敷いた場合、遮水シートを敷いた場合、何も敷かなかった場合を比べたところ、越水時の侵食速度が最も遅かったのが吸い出し防止シートを溶着して設置した場合で、無対策の場合の6分の1程度の侵食速度に抑えられた。遮水シートを30cm重ねて設置した場合でも、無対策の6割程度に侵食速度を抑制できた
  • 遮水シートのケースでは水路側壁沿いでの侵食が顕著であった。隙間から越流水が入り込むと堤体の侵食が助長されると考えられる
耐久性などに対する評価
  • 天端の舗装に関しては、経年的な劣化によってひさしの長さが短くなる旨を指摘
  • 吸い出し防止シートの場合は重ね幅による影響の差異はそれほど大きくなく、溶着による耐侵食性の向上が見られた。ただし、同シート溶着部の強度の長期性能や施工性などについての検討が必要
実際の堤防と実験で異なる堤防条件
  • 裏法尻の実験では、堤体模型の表面をモルタルで固めている(ただし、法尻ブロックと法面の境界部に部材を入れる対策を検証)
  • 越水時に表土が失われる危険性を想定して、シートの上に覆土せずに裏法シート工法の性能を確かめる実験を行った
国土交通省の資料に基づき日経クロステックが作成

 一方、各実験報告ではリスクも提示されている。天端の舗装では経年による強度低下がひさしの機能を小さくする点が、シート対策では溶着部の長期性能の評価などに課題がある点が、それぞれ言及された。

 これらの越水対策は、その扱いが対照的だ。天端の舗装は危機管理型ハード対策として全国の堤防で採用された半面、裏法のシート工法は実験後にお蔵入りしている。だが、過去の実験結果や実際に対策を講じた施設を見ていくと、この判断を全面的に肯定するのは難しい。

 土木研究所がまとめた実験の報告書では、堤体と越流水を完全に分ける遮水シートのような素材を使うと、継ぎ目の隙間が拡大した部分などに流水が集中し、堤体侵食の危険性が増すと評した。越水対策に裏法のシート工法を採用しない大きな理由だ。

 06年度から実施した土木研究所の実験とは別に、01年に国土交通省の研究者らが記した論文がある。ここでは、吸い出し防止シートを敷いた場合でも、隙間があると侵食が急速に進む実験結果が報告された。