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ダムや堤防の整備を進めても、相変わらず豪雨による浸水被害が多発している。洪水を河道内に抑え込む従来の対策だけでは、効果に限界が見えてきた。国や流域の自治体が協力して計画的にあふれさせる「流域治水」に注目が集まる。

 今後は、あふれた水を横に広げる治水に取り組む──。

 国土交通省常陸河川国道事務所那珂川緊急治水対策推進室の堀内輝亮室長はこう意気込む。洪水を河道内に抑え込む対策が最善とはいえない時代になったからだという。

 2020年1月に公表した24年度までの那珂川の治水対策では、河道の流下能力の向上に加え、流域の遊水・貯留機能を高める対策に注力する(図1)。約521億円の事業費を計上し、洪水を河道から計画的にあふれさせて制御する「流域治水」へとかじを切った(図2)。

図1■ 河道と流域で「多重防壁」の治水
図1■ 河道と流域で「多重防壁」の治水
那珂川緊急治水対策プロジェクトの概要。これまでの河道内の対策に加えて、遊水機能の確保や土地利用の工夫に取り組む。国土交通省常陸河川国道事務所の資料を基に日経コンストラクションが作成
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図2■ 川の水を横に広げて被害を防ぐ
図2■ 川の水を横に広げて被害を防ぐ
那珂川の治水対策で取り組む流域治水の考え方。河川堤防だけに頼らず、流域の様々な対策と組み合わせて浸水被害を抑える。国土交通省常陸河川国道事務所の資料を基に日経コンストラクションが作成
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 従来の治水対策では、計画高水位以下で洪水を安全に流すことを目標に、河道掘削や築堤といったハード対策を実施してきた。国や県などの河川管理者がそれぞれ担当区間の整備計画を策定する。

 一方で近年は、気候変動が一因とみられる降雨の激甚化で、河川整備を進めても広域で浸水被害が生じている。担当区間ごとの対策では、被害を抑えられなくなってきた。

 19年10月の東日本台風(台風19号)では、那珂川の複数の地点で氾濫危険水位を大幅に超え、堤防の決壊や越水が相次いだ。那珂川の治水計画で基準としている野口地点では、現行の整備計画で対応する目標の洪水を上回る流量を記録。水戸市や茨城県常陸大宮市などで約2000棟の住宅が浸水した(写真1)。

写真1■ 2019年10月の東日本台風(台風19号)で那珂川や支流の藤井川の堤防が決壊し、水戸市周辺で大規模な浸水が発生した(写真:国土交通省常陸河川国道事務所)
写真1■ 2019年10月の東日本台風(台風19号)で那珂川や支流の藤井川の堤防が決壊し、水戸市周辺で大規模な浸水が発生した(写真:国土交通省常陸河川国道事務所)
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 「降水量が増えたからといって、単純にその雨を流せるように計画高水位を引き上げるのは危険だ」と堀内室長は指摘する。

 堤防をかさ上げすればより多くの洪水を河道で流せる。ただし、川の水位が高いほど、破堤したときの被害は大きくなる。最大の降水量の予測が難しいなかで、破堤しない堤防を造るのは困難だ。

 そこで那珂川の新たな治水対策では堤防だけに頼らずに、越水を前提に流域全体で洪水をためる。流域とは、山の尾根などに囲まれ、雨水がその河川に集まってくる地域全体を指す。国や茨城県、水戸市など17の関係機関が連携して、遊水施設の整備や土地利用の工夫に取り組む。