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流域全体で洪水を制御する治水対策に取り組んでいるのが首都圏を流れる鶴見川だ。遊水地や4900に上る調整池を流域に整備し、「暴れ川」と呼ばれた川を抑え込むことに成功した。関係団体や住民が、取り組み方や土地の活用方法を模索してきた背景がある。
河川に洪水を抑え込むのではなく、流域全体で洪水を制御する「流域治水」。実は、全国に先駆けて40年も前から、国と自治体、企業、市民が共同で流域治水に取り組んできた河川がある。
東京都町田市から川崎市や横浜市を通って東京湾に注ぐ鶴見川だ。2019年の東日本台風(台風19号)では、氾濫の恐れが生じて避難勧告が出たものの、流域の浸水被害をゼロに抑えた。
鶴見川はかつて、氾濫を繰り返す「暴れ川」と呼ばれていた。川が蛇行しているため、地形的に水害が起こりやすい。流域の市街地化が急激に進み、保水・遊水機能が低下したことも一因だ。全長42.5km、流域面積235km2と1級河川の中では小規模な半面、流域の人口密度は1km2当たり8400人と最も多い。
遊水機能を高めるため、流域に遊水施設を数多く整備した。主に民間の宅地開発者が設置する調整池の数は4900に上る(図1)。
こうした施設のなかでも大規模なのが、鶴見川多目的遊水地だ。2003年に運用を始めて以来、21回の洪水を貯留。東日本台風では約94万m3をためた(写真1)。隣接する観測所の水位は、多目的遊水地がなければさらに約30cm上昇し、氾濫危険水位を超えていたと推定される。