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河川上流の水位や流域の降雨量などから、「経験則」で下流の水位を予測する手法が登場した。過去の計測データを使って両者の関係性をAI(人工知能)で学習。その関係式を導き出す。AI技術の進化で、従来の物理的モデルを使った予測を超える精度を示す例も出てきた。

 「水位や降雨量のデータさえあれば、精度の高いモデルが簡単に作れる」。AIを使った洪水予測を研究する日本工営先端研究開発センターの一言正之研究員は、AIの利点をこう説明する。

 洪水予測では通常、地形などのデータを基に、雨水の浸透や流出を「物理的モデル」でシミュレーションし、河川の水位を求める。この手法では、地形を反映した詳細なモデルの構築が必要だ。生じた予測誤差に対し、要因を分析してパラメーターなども調整しなくてはならない。

 一方、AIを使う手法では、過去のデータを基に「統計的モデル」を作成して予測する。物理的モデルよりも容易に構築できるという。

 AIは一般的に、入力層、中間層、出力層から成り、各層は複数のノード(節点)で構成される(図1)。入力層に入った情報は、各ノード間で重み付けをしながら伝搬し、出力層に至る。過去の情報をAIに学ばせて重み付けなどを調整し、入力データと出力データとの関係性を導き出す。最近注目されている「深層学習」は、中間層が2層以上のものを指す。

図1■ データ同士の関連をAIが「学習」
図1■ データ同士の関連をAIが「学習」
深層学習によるAIの概念図。複数の中間層で構成する深層学習に対し、一般的に中間層が1層のものをニューラルネットワークと呼ぶ。日本工営の資料などを基に日経コンストラクションが作成
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 一言研究員は、宮崎県の大淀川流域で、過去の洪水時のデータを用いて検証した。入力データは、雨量観測所14カ所と水位観測所5カ所の雨量・水位などだ。樋渡水位観測所の水位を出力データとした(図2)。

図2■ 大淀川水系で予測精度を実証
図2■ 大淀川水系で予測精度を実証
予測精度の検証に用いた大淀川水系樋渡地点の上流域。周辺にある雨量観測所14カ所と流域内の水位観測所5カ所のデータを使用した。流域面積は861km2、幹川流路延長は52km(資料:日本工営)
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 1982~2014年に起こった24回の洪水のデータをAIで学習。上位4洪水について物理的モデルを含む5つの手法を使い、洪水のピーク前後で1~6時間後の水位を予測した。

 予測と実際の水位との間の誤差を求めると、深層学習が最も小さい(図3)。例えば、6時間後の予測における誤差の平均(RMSE)は、物理的モデルを使う「分布型(粒子フィルター)」が約80cmだったのに対し、深層学習は約60cmだった。

図3■ 5つの手法で予測精度を比較
図3■ 5つの手法で予測精度を比較
大淀川水系の樋渡地点で検証した予測手法別の精度。過去に起こった上位4洪水を対象に、1~6時間後の予測における誤差の平均をグラフにした。分布型2種類が物理的モデル、他の3種類が統計的モデルを使った手法。このうち、一般的にAIと呼ばれるのは、ニューラルネットワークと深層学習(資料:日本工営)
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