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建設現場での罹患(りかん)者発生に備え、個人情報取扱規定を見直す必要がある。建設関連の法務に詳しい匠総合法律事務所の秋野卓生弁護士が助言する。

秋野卓生氏。匠総合法律事務所代表社員弁護士。1973年千葉県生まれ。96年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2001年4月に秋野法律事務所を開設。03年に現事務所名へ改名。18年度から慶応義塾大学法学部教員(法学演習/民法)(写真:匠総合法律事務所)
秋野卓生氏。匠総合法律事務所代表社員弁護士。1973年千葉県生まれ。96年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2001年4月に秋野法律事務所を開設。03年に現事務所名へ改名。18年度から慶応義塾大学法学部教員(法学演習/民法)(写真:匠総合法律事務所)

 2020年4月8日付の国土交通省建設業課長通達で指摘されたように、建設工事の現場では、密閉空間、密集場所、密接場面という、「3つの密」が重なる場が発生する。

 建設工事の現場では、朝礼・点呼や現場事務所における打ち合わせ、更衣室における着替えや詰め所での食事・休憩などが必須だ。多人数が集まる場面や密室・密閉空間における作業が生じる。新型コロナウイルス感染症に罹患する従業員や作業員が生じるリスクは否定できない。

 万一、従業員や作業員が罹患した場合、所轄保健所と連携のうえ、感染者および濃厚接触者の特定、在宅勤務指示と健康観察、就業エリア・共用部の消毒、社内における状況の告知、さらには一定期間の事業所の閉鎖などの措置を取る必要がある。これらの措置を取る際に忘れてならないのが、個人情報保護法の順守だ。

 「個人情報」とは「生存する個人に関する情報で、氏名や生年月日等によって特定個人を識別可能なもの」を指す。その中で「要配慮個人情報」に当たるのは、次の情報だ。

 「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」(個人情報保護法2条3項)。

 ある人が新型コロナウイルス感染症に感染した、または検査で陽性という結果が出たという情報は要配慮個人情報に該当する。個人情報取扱事業者は、法令に基づく場合など一定の例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない(改正個人情報保護法17条2項)。

 従って、感染者のプライバシー・個人情報を本人の同意を得ずに公表するのは個人情報保護法違反となる。

検温情報の取得は適法

 最近、元請けの会社が次のような通達を下請けに出す例をよく目にする。「現場入場前に検温し、37.5℃以上の熱がある場合には、現場に入場してはならない」「現場入場前に検温し、その結果を元請け業者の現場監督に報告しなければならない」。

 検温情報の取得は個人情報の取得に該当する。しかし、要配慮個人情報には該当しない。従って、個人情報保護法上、取得自体は不正の手段を用いない限り適法だ。ただし、その取り扱いには注意が要る。

 個人情報保護法15条は、個人情報取扱事業者が個人情報を取り扱うに当たって、その利用の目的をできる限り特定しなければならないと規定する。本人の同意がない限りは、原則として利用目的の達成に必要な範囲内でのみ、個人情報を利用できる(個人情報保護法16条1項)。

 先述の通り、従業員や下請け業者の検温情報、新型コロナウイルス感染症に罹患したという感染情報、感染疑いの情報は個人情報に当たる。建設会社などが取得したこれらの個人情報は、あらかじめ特定した利用目的の範囲内でしか利用できない。

 ここで、建設会社の経営者には、自社の個人情報取扱規定やプライバシーポリシーを改めて確認してもらいたい。「従業員に対する安全配慮義務の履行」「職場の安全衛生管理」「建設現場における安全衛生管理」といった利用目的が定められているかという点だ。多くの会社の個人情報取扱規定やプライバシーポリシーには、恐らくこういった利用目的が記載されていないと考えられる。

 そうした記載がないのであれば、まだ感染者が出ていない段階で、自社の個人情報取扱規定やプライバシーポリシーを見直すよう強く勧める。個人情報の利用目的に、前述の利用目的を追記しておくのだ。

 利用目的を追記する前に感染者が発生した場合で、感染情報などを入手する際には、上記の利用目的を忘れずに明示しなければいけない。

 取得状況から見て利用目的が明らかであれば、その通知は不要だ(個人情報保護法18条4項4号)。従業員から感染情報を知らされた場合は、感染拡大防止など利用目的が明らかであると認められる余地はある。それでも、利用目的を追記しておく方が望ましい。