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発注者のパソコンに眠るインフラ関連のデータが公開され始めた。一般ユーザーから思わぬ使い方が提案されるなど、防災や維持管理に変革をもたらす。

(イラスト:山田 タクヒロ)
(イラスト:山田 タクヒロ)

 「なんかよく分からんけどスゴイ!」。コロナ禍真っただ中の2020年5月、3次元の街並みを映した動画が一般ユーザーによってSNS(交流サイト)に投稿され、話題に上った。動画の基になったのは、MMS(モービル・マッピング・システム)で取得した1m2当たり400点以上に及ぶ高密度の点群データ。「リアル過ぎる」と評判を呼んだ。

 一方、別のユーザーは、航空レーザー測量で記録した山間部の点群データを加工してメッシュ状に変換。目視で確認しづらい斜面の傾きを算出し、崩れやすそうな箇所を可視化する手法を提案した(図1)。

図1■ 点群データを基に斜面崩壊のリスクの分布を可視化
図1■ 点群データを基に斜面崩壊のリスクの分布を可視化
静岡県が作成した点群データからメッシュを作り、傾斜角度で色分けした。色が赤い箇所は斜面が急なため、崩壊リスクが比較的高い(資料:八千代エンジニヤリング・山本一浩氏)
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 2つのアイデアの共通項は、静岡県が20年4月30日に無償公開した点群データを利用している点だ。個人が大容量のデータを扱えるようになり、県が思いもよらなかった用途が出てきた。インフラの維持管理や防災の分野の業務を革新する可能性がある。

 発注者が保有していた地形や地質、インフラ構造物に関する情報を、使いやすい形でオンライン上に集約する基盤を「インフラデータプラットフォーム」と呼ぶ。静岡県の例のように、にわかに注目を集めている。

地下の点群データも集める

 同県は、早くからデータプラットフォームの構築や普及に力を入れてきた。17年には、公共の工事や業務で取得した点群データを集めて「Shizuoka Point Cloud DB(PCDB)」の運営を始めている。

 PCDBの構築は、災害復旧の迅速化が狙いだった。例えば土砂崩れが起こった際は、付近をレーザースキャナーやドローンで計測。崩壊前に記録した点群データと比較して、素早く安全に崩壊土量などを算出する。発災から1週間程度で報告が必要な災害査定を効率化できると期待された。

 しかし、「防災目的だけで県内全域の点群データを集めるのは予算の点で難しかった」と、静岡県交通基盤部建設イノベーション推進班の杉本直也班長は説明する。そこで、点群データを「誰でも扱える」ように用途を広げ、3次元空間に仮想の静岡県を構築する「Virtual Shizuoka」構想を立てた。データの無償公開はその一環だ(図2)。

図2■ 約7テラバイトに及ぶ点群データを公開
図2■ 約7テラバイトに及ぶ点群データを公開
国土地理院のデータを使用。青の着色部は20年4月に新しく点群データを公開した地域(資料:静岡県)
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 総容量が7テラバイトを超える高密度・広範囲の点群データの公開は他に例がない。車の自動運転のための地図作成やVR(仮想現実)を使ったサイバー空間での観光といった用途が続々と考案されている。

 もちろん土木工事でのデータ活用も進み始めている。中でも地下埋設物の管理でのメリットは大きい。

 道路下の管路は、電力や水道、ガスなど様々な管理者が、台帳をそれぞれ保有。掘削工事のたびに各管理者への照会や申請が必要だった。

 共通のデータプラットフォーム上で埋設物の3次元データを管理すれば、事務手続きの省力化につながる。照会不足や図面管理の不備などが原因で、掘削時に管路を誤って傷付けるリスクが減る。埋め戻し前に点群を取得するだけで、最新の位置データに更新できる。「巻き尺で測って図面に書き込むよりも早く、正確だ」(杉本班長)