i-Constructionで成果を上げるのは、大手の建設会社だけではない。河川工事を対象にICTを活用する2つのC等級の建設会社を通して、地方でのi-Con普及の鍵を探る。

従業員わずか14人で、ICT(情報通信技術)活用工事の実績を上げ続ける建設会社がある。富山県立山町に本社を構える松嶋建設だ。国の発注標準ではC等級に該当する。
2019年度には国土交通省北陸地方整備局が発注する常願寺川の維持管理工事で、河道の整正や樹木の伐採にICTを活用した。河道の整正では建機を3次元で自動制御するマシンコントロール(MC)を導入。伐木を巡る一連のプロセスにおいてもICTを導入した(写真1)。
伐木の仕事では概算発注が基本だ。受注者と発注者が木の生い茂っている中に入り、伐採する立木の10m四方の密度を合意した上で単価を決めていた。
「イバラやトゲでズボンやカッパなど作業着が破れることも少なくなかった。とても生産的とは言えなかった」。松嶋建設の松嶋幸治専務取締役はこう明かす(写真2)。
そこで同社が提案したのが、GNSS(衛星を用いた測位システムの総称)測量器やドローンを使った伐木の作業面積測定と立木の密度の確認だ。
まずはGNSS測量器で、ドローンの評定点となるXYZの座標を測定(写真3)。続いてそこに要定点を置き、ドローンを飛ばしながら河川敷の写真を撮影した(写真4、5)。そして画像から伐採する立木の密度を確認し、単価を決定する(図1)。
樹木の中に入らなくても協議を進められたために、手待ち時間などを省け、施工性は上がった。「時間的な余裕が生まれ、利益につながっている」と松嶋専務は明言する。伐木した面積の出来形確認には、GNSS測量器を利用した。
地方の建設会社は、維持管理工事などを請け負う機会が多い。ICTの活用先は施工だけに限らず、松嶋建設が実施したような伐木の管理も含まれる。立派なi-Constructionの取り組みだ。「維持管理工事におけるICT活用のスタンダードにしたい」。松嶋専務はこう意気込む。
ドローンはスコップと同じ道具
同社のICT化への取り組みは、5年前に購入した1台のドローンから始まった。当時はまだ黎明(れいめい)期で、ドローンを持っている地方の建設会社は珍しかった。立山カルデラ内における砂防工事で土砂崩れの恐れがあり、安全確認のためにドローンを利用した。
その後も自分たちの会社が施工する現場に合ったドローンを探し続け、全国にアンテナを伸ばした。そこで、地方の中小建設会社から成る「やんちゃな土木ネットワーク(YDN)」とつながり、貴重な情報を仕入れられるようになった。
「ドローンもスコップも同じ道具。現場に合わなければ意味がない。YDNから現場作業に合うドローンの生の情報を得られたのは非常に大きかった」と、松嶋専務は振り返る。会社に眠っている歴代のドローンが、松嶋建設の試行錯誤を物語る(写真6)。
同社はGNSS測量器の取り扱い説明動画を自作するなど、社内の人材育成にも力を入れる(図2)。その他、作業員に現場の全体像を把握してもらうために、ドローンの空撮動画をユーチューブで限定公開している。
社員数が少ないため、ICT専属の部署を立ち上げることは難しい。それでも、ようやく全社員にICTの知見が備わってきたという。
「ドローンの購入は簡単でも、航空法や電波法など法律があり、相当に勉強する必要がある。人材育成などで、会社としての全面的なバックアップがなければ、ドローン事業を軌道に乗せるのは難しかった」と松嶋専務は振り返る。