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先端技術と臨機応変かつ迅速な対応とを強みとするスタートアップが、建設業界で大きく成長するためには、どんな技術領域が狙い目となるのか。専門家へのアンケートと取材から、建設スタートアップの未来を探る。

 スタートアップが提供する技術の多くが、2025年までに一般的な工事にも浸透する──。日経コンストラクションが専門家に尋ねたアンケートからは、こんな近未来が見えてきた(図1)。

図1■ 2025年までに急速に普及が進む
図1■ 2025年までに急速に普及が進む
矢印の終点位置は、各普及段階の達成時期
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建設分野に詳しい証券アナリストやベンチャーキャピタルの投資担当者、建設会社でスタートアップとの技術開発に携わる担当者などに、建設業界におけるスタートアップの展望を聞き、回答の平均を日経コンストラクションが図示した。図1は各技術の普及時期を5段階、図2図3は技術分野別に4段階の数字で答えてもらい、数値を平均化して変化の時期、ニーズの大きさなどを示した。回答者は青木滋(オリエンタルコンサルタンツ)、小原孝之(前田建設工業)、河合一憲(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、小沼恵太郎(パシフィックコンサルタンツ)、中野哲治(SMBCベンチャーキャピタル)、堀井環(大林組)、八木亮(三菱UFJモルガン・スタンレー証券)、山田英司(日本総合研究所)、吉村修一(INCJ)の9人(敬称略、50音順)

 「建設業界がスタートアップの技術で解決したい課題は、何といっても人手不足だ」。こう話すのは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で建設業界を担当する八木亮・インベストメントリサーチ部アナリストだ。「人手不足の顕在化する25年ごろまでに技術が浸透していなければ、意味がない」と続ける。

 普及時期については、技術分野に応じて差が出てきそうだ。専門家の多くは、1つの技術領域を足掛かりにして、他の技術領域を発展させていく姿を想定している。

 SMBCベンチャーキャピタルの中野哲治投資営業第一部次長は、「データを集められる環境を造ることが重要になる」と語る。自動制御やロボティクスなどで生産性を上げるには、作業を自動化するAI(人工知能)の発達が欠かせない。そのためには、AIに学習させるデータが要る。

 「フォトラクションのように、まずはクラウドでデータを管理するアプリを提供し、集めたデータからAIを使った画像解析、RPAに広げる戦略が好ましい」(中野次長)

 データプラットフォームと同様に、カギとなる技術領域に挙がったのが、BIM/CIMなど3次元データの活用だ。「BIM/CIMと連携しながら、工程へのひも付け、建機の自動制御技術などが発達する」。大林組で海外のスタートアップとの共同開発を担当する堀井環・グローバル経営戦略室経営基盤イノベーション推進部長は、こう説明する。

行政の後押しが肝心

 では25年ごろまでに、スタートアップが持つ技術のうち、特に活用が期待されるのは、どの分野だろうか。技術領域と建設生産プロセスの段階とを組み合わせて区切った分野に対し、専門家に活躍の度合いを4段階で評価してもらった(図2)。

図2■ スタートアップの技術は2025年までに施工フェーズで活躍
図2■ スタートアップの技術は2025年までに施工フェーズで活躍
技術領域と建設生産プロセスの段階とを組み合わせて区切った分野に対し、2025年ごろまでのスタートアップの活躍の度合いを専門家に4段階で評価してもらい、平均値を図示した。アイコン横のドットの数は、小数点1位の数字。平均値が3以上3.5未満の分野を薄いオレンジ、3.5以上の分野を濃いオレンジで表した
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 どの技術領域も、施工段階での期待が大きい。施工管理アプリといった事務処理を効率化する技術や建機の自動運転などが代表例だ。

 続いて、技術領域と利用目的の区切りで各技術のニーズを尋ねた。すると、コスト削減よりも省人化・省力化や安全性向上の需要が大きかった(図3)。日本総合研究所の山田英司理事は、「安全性向上は建設業界に参入するうえでの前提」だと言う。

図3■ 2025年ごろまでは省人化・省力化につながる技術にニーズあり
図3■ 2025年ごろまでは省人化・省力化につながる技術にニーズあり
技術領域と利用目的とを組み合わせて区切った分野に対し、2025年ごろまでのスタートアップの持つ技術ニーズの高さを専門家に4段階で評価してもらい、平均値を図示した。アイコン横のドットの数は、小数点1位の数字。平均値が3以上3.5未満の分野を薄いオレンジ、3.5以上の分野を濃いオレンジで表した
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 建設業界でスタートアップの成長を阻害する要因は、法規制や工事の入札で求められる過剰な公平性だ。

 例えば、新技術を導入する際には、協会の設立など複数の会社が使える体制とルールの制定が求められるケースが多い。「それではスタートアップが育たない」と、複数の専門家が口をそろえる。「ルール作りも含めてスタートアップとしっかり協力していきたい」と話すのは、前田建設工業のICI総合センターの小原孝之イノベーションセンター長だ。

 入札での競争性を確保するために求められるのが汎用性だ。スタートアップの武器はとがった技術やサービスが中心なのに、建設業界では誰もが使える汎用性が強く求められる。「独自性の強いスタートアップの技術を試す場が必要」と、日本総研の山田理事は説く。土木分野でスタートアップが存在感を増すには、行政や公的機関の後押しが不可欠だ。