! 球磨川では1980年代以前の鋼桁を中心に多数の被害が発生した
! 山に挟まれた地形で激しい水流が橋に作用したり増水によって浮き上がったりしたとみられる
熊本県南部を流れる球磨川水系では、本川と支川を合わせて14もの道路橋が流失した(図1)。残された一部の桁に流木が絡まっていることなどから、水流による側圧をもろに受けたり、増水によって浮き上がったりしたと思われる。流されたのは主に古い橋だ。堤防の上を交差する橋や1990年代以降に造られた橋などは流失を免れた。
本川では、約50kmの区間で10橋の流失が相次いだ。うち3橋が80年代に、それ以外は全て60年代以前に建設している。いずれも幅員が3~7mと狭い。さらに、7橋は鋼製のランガーやトラスといった比較的軽い構造形式だった。
下流側を見ると例えば、八代市にある県道17号の2径間鋼トラスの坂本橋は54年に完成した。全長は121mで幅員は5m。堤防の天端を通る道路とほぼ同じ高さに架かる桁が流された(写真1)。
河川をまたぐ橋は一般に、水流の影響を受けないように計画高水位よりも高い位置に桁を設ける。しかし、坂本橋は桁下端が計画高水位よりも低いために、国土交通省九州地方整備局が定めた球磨川の水防計画で最も注意が必要なAランクの「重要水防箇所」に指定されていた。
加えて、坂本橋の2kmほど下流にある横石観測所では、2020年7月4日正午の水位が計画高水位を1.91m超過して12.43mを記録した。水工学を専門とする九州大学の矢野真一郎教授は、「谷底のため水位が両岸の路面を超え、流れの速い水が流木と相まって一帯に作用したのではないか」と指摘。桁は高い側圧などを受けたとみられる。
上流側に目を移すと、家屋の被害などが多発した球磨村の渡地区でも複数の落橋があった。例えば、県道325号の鋼トラスの相良橋(写真2、3)。全長132m、幅員7mで1935年に完成した。
150mほど離れた渡観測所では、20年7月4日午前7時に計画高水位よりも1.22m高い12.55mの水位を記録した後、欠測が続いている。周囲を山に囲まれて川幅が狭まる地形のため、逃げ場のない水が激しく押し寄せたようだ。
「渡地区では電柱の倒壊が目立つ。辺り一帯に激しい水流や高水位による側圧が生じたのだろう」。現地を調査した橋梁に詳しい熊本大学の松村政秀教授は、こう話す。