! 熊本県南部で起こった土砂災害の多くは表層の風化が原因とみられる
! 渓流出口から直角方向に数十メートル離れていれば、垂直避難も視野に
浸水被害が目立つ「令和2年(2020年)7月豪雨」だが、実は土砂災害でも15人の死者が出ている。そのほとんどは、熊本県南部に位置する芦北町や津奈木町で発生した土砂災害による犠牲者だ。熊本大学の現地調査や京都大学防災研究所流砂災害研究領域の竹林洋史准教授による2次元土石流数値シミュレーションで、被災地の土砂災害の実態が見えてきた。
「まだ調査の途中だが、芦北町や津奈木町で発生した土砂災害の多くは、表層が風化して崩壊した」。地質などに詳しい熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター減災型社会システム部門の宮縁育夫教授は、こうみる。海洋プレートが沈み込む際にはぎ取られた「地質体」が重なってできた「付加体」での崩壊が多かったようだ。
崩壊の誘因は圧倒的な雨だ。3人の死者が出た芦北町田川地区では、7月4日未明から雨脚が強くなり、午前4時ごろに土石流が発生した(写真1)。1時間当たりの降雨強度は100mmを超えた時間帯があった。
京大防災研の竹林准教授によるシミュレーションでは、勾配が25度程度と急な斜面で平均時速46kmの土石流となり、発生から15秒で土砂が家屋に到達した。あっという間の出来事だったと思われる。渓流の出口にあった2階建ての家屋を襲った土石流の高さは2~3mだった(図1)。衝突によるせり上がりによって、一時的に5m以上の高さに達している。空撮の写真を見ると出口にあった家屋は全壊。その隣の家屋も全壊または一部損壊している。
一方で、全壊箇所から約30m南に離れた家屋では土石流の最大高さが約1.8mだった。土砂災害発生後の現地写真では、家屋に大きな損傷は見られない。
現場は、土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域(イエローゾーン)の指定を受けていた(図2)。土石流の発生や急傾斜地の崩壊などによって、身体に危険が及ぶ恐れのある区域として認識されていたわけだ。ただし、崩れた箇所はイエローゾーンとは別の箇所だった。