全1275文字
! バックウオーター対策の導流堤を整備していたものの、浸水は防げなかった
! 球磨村が「避難準備・高齢者等避難開始」を発令しても、千寿園は即座に避難行動を取らなかった
市町村別では最大の被害者が出た球磨村。球磨川と小川の合流地点に位置する渡地区では、特別養護老人ホーム「千寿園」が浸水(写真1)。14人の入居者が死亡した。
同地区は鮎釣りやラフティングでにぎわう自然豊かな観光スポットとして知られる。同時に、過去に何度も浸水被害に見舞われた、“いわく付き”のエリアでもあった。
千寿園は洪水浸水想定区域内に位置し、想定最大規模の降雨で深さ10~20mの水に漬かるとされていた。土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域にも含まれている(図1)。加えて、本流と支流がほぼ直角に合流することなどが原因で、増水した球磨川に支流の小川がせき止められて水位が上昇する「バックウオーター(背水)」が起こりやすい地形だった。
このため国土交通省は2014年に、合流をスムーズにして水位上昇を防ぐ長さ150m、高さ8mの導流堤を整備。近年で最も多い16戸が床上浸水し、千寿園の間近に水が迫った05年9月と同等の洪水で、小川の水位を約1m下げる効果があると期待していた。しかし、過去最大とみられる球磨川の氾濫を前に、被害を防ぐことはできなかった。