量的な拡大を求めてきた日本の道路政策が転機を迎えている。計画延長1万4000kmの高規格幹線道路は既に9割近くが完成した。ただ、あの手この手で整備を進めた結果、無料と有料の混在など不可解な状況が発生。さらに、老朽化した高速道路の更新費用をどう捻出するかなど、問題は山積だ。

転機の道路政策
目次
-
一本調子の拡大期から転換期に
高規格幹線道路の計画延長1万4000kmのうち9割近くが開通し、整備は終盤を迎えている。一方で、新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ交通量は、どこまで回復するか分からない。社会構造が大きく変わるなか、日本の道路整備は転換期を迎えている。
-
対症療法の整備が生んだ“不可解”
地方に行くと、有料区間と無料区間が複雑に入り交じった高速道路がある。整備に至るまでの経緯によって事業主体が異なった結果、不可解な混在が生じた。費用負担の考え方を整理することなく、対症療法で整備してきた結果だ。
-
順調な債務返済の陰に国の施策
日本道路公団など4公団が2005年に民営化されて15年になる。低金利のおかげで債務の返済は順調だが、高速道路政策は相変わらず国主導で進む。新規路線の建設や料金制度など、民間企業の経営判断が働いているとは言い難い。
-
別枠予算で巨大事業を強力に推進
東日本大震災から10年となる2020年度末までに、復興道路と復興支援道路がほぼ全て開通する。被災地の迅速な復興を目的に、膨大な予算を投じて国が建設。完成後は無料で開放する。大急ぎで建設を進めた結果、「副作用」として事業費の増大が相次いでいる。
-
一時しのぎで更新問題を先送り
2005年の高速道路会社の発足当時、債務の返済計画に大規模更新を含めていなかった。14年に計画を見直したものの、更新・修繕の対象とした区間は全体の一部にすぎない。残りの区間の老朽化問題については、先送りにしているのが実情だ。
-
20年ぶりに新たな整備計画を作成
高規格幹線道路が完成に近づくなか、それ以外の広域道路網の再編が課題となっている。国と自治体は約20年ぶりに広域道路網を見直し、新たな整備計画を作成する。既存の計画路線の廃止を含め、20年間の環境変化に応じた現実的な計画が求められる。
-
車から人へ、道路空間を再構築
国土交通省が18年ぶりにまとめた道路政策ビジョンは、過去の内容と一線を画す。道路政策の原点を「人々の幸せの実現」と定義。人中心の道路を追求する姿勢を鮮明にした。道路法にも「歩行者の利便増進」を初めて導入。従来の車中心の政策から大きくかじを切った。