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国土交通省が18年ぶりにまとめた道路政策ビジョンは、過去の内容と一線を画す。道路政策の原点を「人々の幸せの実現」と定義。人中心の道路を追求する姿勢を鮮明にした。道路法にも「歩行者の利便増進」を初めて導入。従来の車中心の政策から大きくかじを切った。

 車から人へ──。道路整備の在り方が、自動車の安全で円滑な通行から、人々の多様なニーズへの対応に、大きく変わろうとしている。

 国土交通省は2020年6月、今後20年間の道路政策の方向性を示すビジョンを発表した(図1)。国交省が道路政策ビジョンをまとめたのは、02年以来18年ぶりだ。

図1■ 「人中心」の道づくりへ転換
図1■ 「人中心」の道づくりへ転換
「道路政策ビジョン」は道路の将来像を提示した。図は「人中心」の空間に再構築したイメージ(資料:国土交通省)
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 今回のビジョンは、経済や防災など特定分野に絞った従来の手法と異なり、道路政策の原点を「人々の幸せの実現」と定義。そのうえで、道路をデジタル技術で「進化」させ、同時に昔の井戸端会議のような交流の場に「回帰」させる方向性を示した。

「歩行者利便増進道路」を創設

 ビジョンは、国交省の社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会が、同省の中堅・若手職員と共にまとめた。同部会長を務める筑波大学の石田東生名誉教授は、20年後の道路政策を担う職員らに次のように諭した。

 「道路が社会や経済に果たす役割は、車の円滑な通行だけではない。地域が安全・安心で活気に満ち、人々が幸せになることが最も重要だ」

 ビジョンの骨格は、新型コロナウイルスの感染が拡大する前に固まっていた。国交省が20年2月に公表した素案は既に、収束後の新しい生活様式を予見する内容となっていた。

 例えば、素案が将来シナリオとして示し、ビジョンにも盛り込んだ「通勤や買い物などのルーティン移動が激減」や「eコマースの浸透で物流の小口配送が増加」などだ。

 赤羽一嘉国交相は、石田部会長からビジョンを手渡された際に、「ポストコロナを先取りするような提言だ」と、その先見性を評価した(写真1)。

写真1■ 2020年6月18日の手交の様子。左から、国土交通省の社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会の石田東生部会長、赤羽一嘉国土交通大臣(写真:国土交通省)
写真1■ 2020年6月18日の手交の様子。左から、国土交通省の社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会の石田東生部会長、赤羽一嘉国土交通大臣(写真:国土交通省)
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 国交省が20年5月公布の改正道路法で創設した「歩行者利便増進道路」(ほこみち)も、そうしたビジョンの特徴を示す政策の1つだ(図2)。

図2■ 改正道路法で「歩行者利便増進道路」を設ける
図2■ 改正道路法で「歩行者利便増進道路」を設ける
改正道路法で創設した「歩行者利便増進道路」のイメージ。歩道を広げて、テラス席付きのカフェなどを設置しやすくする。国土交通省の資料を基に日経コンストラクションが作成
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 ほこみちは、道路管理者が地域活性化を図る市町村などと協議して、特定の道路を指定する。指定道路では、新たな構造基準を適用し、占用基準を緩和。歩道にテラス席付きのカフェなどを設置して、歩行者が楽しめる「にぎわい空間」を創出する。

 ビジョンでは、政策の方向性の1つに、「行きたくなる、居たくなる道路」を挙げている。都市のメインストリートをにぎわいにあふれるコミュニティー空間に再構築する考え方だ。ほこみちは、それを実現する手法の1つに位置づけられる。