5年に1度の近接目視点検の効率化を図ろうと、モニタリング技術の実装に向けた機運が高まっている。過去にも導入が試みられたものの、普及は進まなかった。コストの高さに加え、計測結果の扱いづらさなどが原因だ。モニタリング技術を導入した事例を検証し、計測データを維持管理に生かす方策を探る。

再挑戦のモニタリング
維持・補修2020
目次
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モニタリング主導の時代へ
橋やトンネルなど道路施設の定期点検が2024年度に3巡目を迎える。国土交通省は点検技術のカタログ改訂でモニタリング技術を追加した。人力に頼らない点検や診断の時代の到来を目指し、官民の取り組みが始まっている。
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膨大なデータに手が付けられず
2012年に開通した東京ゲートブリッジは計48個のセンサーから成るモニタリングシステムを搭載し、新たな維持管理の手法を切り開くきっかけになると期待された。しかし、思うように成果は上がっていない。コストの高さに加え、データの扱いづらさが原因だ。
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監視技術丸分かりの「標準」登場
モニタリング技術は、開発や実証が進んでも本格的な実装に至ったケースはまれだ。そこで、政府が予算を投じたSIPの成果などを基に、受発注者が共同でガイドラインを整備。使い方やコストを細かく示し、社会実装に向けて動き出した。
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しきい値改め“過剰除湿”を抑制
羽田空港D滑走路の桟橋部の内部では除湿機が稼働している。100年間の設計供用期間を全うするための徹底した腐食防止策だ。供用開始後に発生した局所的な高湿度で稼働率が高くなる課題を解決した。
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身の丈に合った状態計測を
自治体のニーズとかみ合わず、消えていったモニタリング技術は多い。そんな中、島根県益田市は長期にわたって使い続けられる技術の開発につなげた。職員自らセンサーについて学び、課題を出し合う姿勢が実現に導いた。
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置くだけで橋の劣化度を知る
橋のたわみ量の常時モニタリングはデータの蓄積などの利点があるが、コストが高い。そこで、計測する時だけセンサーを持ち込むモニタリング技術の開発が進んでいる。橋の安全性に直結するたわみは、中小規模の橋の点検でこそ力を発揮する。
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老朽橋の存廃を決める切り札に
富山市は老朽橋のひび割れ幅や桁の沈下量を計測するモニタリングを実践している。計測値がしきい値を超えた橋は補修するとは限らず、撤去も視野に入れる。合併で拡大した市域に分布する橋を全て維持することは、困難になっているためだ。
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劣化予測も知識伝承もデータが担う
維持管理のデータが蓄積されれば、土木技術者もその分析に無頓着ではいられなくなる。経験知を共有したり効率的な維持管理計画を立てたりする事例が生まれている。人手や予算の不足を打破するには、データの利活用が欠かせない。