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維持管理のデータが蓄積されれば、土木技術者もその分析に無頓着ではいられなくなる。経験知を共有したり効率的な維持管理計画を立てたりする事例が生まれている。人手や予算の不足を打破するには、データの利活用が欠かせない。

 インフラ構造物のモニタリングを実施するためのセンサーの導入が進む将来、土木技術者に求められるのが集めたデータを使いこなす力だ。点検や計測の結果を注意深く分析すれば、維持管理の勘所も見えてくる。

 総延長166.7kmに及ぶトンネルを維持管理する東京地下鉄(東京メトロ)は、データの重要性にいち早く気付いた企業だ。点検や補修の合理化を狙い、10年以上にわたって蓄積した過去の定期点検の結果を全てデジタル化した(写真1図1)。

写真1■ 東京メトロは1路線を3カ月かけて点検する。3人1組で実施している(写真:東京メトロ)
写真1■ 東京メトロは1路線を3カ月かけて点検する。3人1組で実施している(写真:東京メトロ)
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図1■ 点検結果はタブレット端末で記録する
図1■ 点検結果はタブレット端末で記録する
変状の種類や程度を入力する(資料:東京メトロ)
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 目的の1つは、データを通じた知識の伝承だ。熟練の点検技術者の経験知を可視化し、社内で共有する。例えば、トンネルに近接して工事が進められている区間や、河川の下をくぐる区間は変状が生じやすい。点検に手慣れている技術者ならば注意深く確認するのが当たり前だ。しかし、一連の知識は技術者の頭の中にしか存在しない。技術者の減少などに伴って伝承が途絶える恐れがあった。

 そこで、東京メトロはトンネルに生じた変状の分布の可視化に着手。データを駆使した定量的な評価手法で、変状が見つかりやすい箇所を明らかにした。点検の効率化や変状の原因究明、対策の立案に生かす。

 手順は次の通りだ。まずは、トンネル内に生じたひび割れや漏水といった変状の度合いなどを数値化する。点検者によるばらつきや構造の差異などを統計処理によって整え、一定区間ごとに「維持管理指標」を求めるのだ(図2)。指標は2つ以上の区間の相対値として算出し、変状が多かったり劣化が進んでいたりするほど値が大きくなる。異なる路線間の比較も可能だ。

図2■ 劣化状況を独自指標で分析
図2■ 劣化状況を独自指標で分析
維持管理指標θを用いて相対的な劣化の分布を示す。θの値が大きいほど補修の優先度は高い。上の式のaは変状の見極めやすさ、bは変状の観測しやすさ、iとJは区間(資料:東京メトロ)
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 次に、トンネル全体を指標で色分けすると、路線内の変状の分布が一目で分かる。付近の地形や工事の状況などと突き合わせれば、変状の原因が見えてくる。

 指標の分布を見渡すと、意外な劣化要因に気付く場合もある。例えば、ある路線では河川の近くを通る区間の変状が目立っていた。「細かく調べると、河口から離れているにもかかわらず海からの塩分の影響が大きいと分かった」。東京メトロ鉄道本部工務部土木課の榎谷祐輝主任は、こう明かす。原因が分かれば、効果的な対策を講じやすい。

 変状の対策などを決める社内会議でも、データによって可視化した結果を使って議論する。変状の分布に加え、センサーやカメラで計測したデータを用いる場合もある。「数値に基づいた議論は、若手社員の教育にもつながる」(榎谷主任)

 点検結果を蓄積したデータベースは、補修計画の作成にも役立てる。東京メトロは、対象区間の変状の度合いや建設年度などから重みを付け、修繕の優先順位の高い箇所をリストアップするシステムを開発した(図3)。

図3■ 補修計画を自動で立てる
図3■ 補修計画を自動で立てる
年間予算などを踏まえて、補修の順番を決める。画面はサンプル(資料:東京メトロ)
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 例えば、建設年度が古く、状態が悪い区間は最優先。同じような変状が集中する区間は、効率を考慮してまとめて補修する計画が提案される。あらかじめ定めた予算や、1年間に施工可能な工事量に収まるように「1年以内に補修」、「3年以内に補修」といった計画を自動で立てる。補修計画の立案に要する業務量は、従来の6分の1だ。

 東京メトロでは、専用のアプリを入れたタブレット端末で定期点検の結果を記録する。事務所に戻れば、その日の点検結果は自動でデータベースに追加される。「タブレット端末やデータを駆使する姿は、かっこよく映るだろう。人手不足を解消するためにも、維持管理のイメージを変えていく必要がある」。東京メトロ鉄道本部工務部の小西真治担当部長は、こう期待する。

 今後、補修後の経過などの記録を続けて劣化の将来予測にも生かす。データを活用する技術として、人工知能(AI)にも着目。トンネル壁面の画像から劣化箇所を自動で抽出するAIの開発を進めている。