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東日本大震災では、津波で東北の沿岸域が甚大な被害を受けた。被災地では巨大な防潮堤の整備が進んだが、グリーンインフラを取り入れた例は少ない。沿岸域の存立基盤の生態系を損なう形で復興しても、いずれ地域の持続性を失う。「グリーン復興」という考え方が重要だ(日経コンストラクション)。

 東日本大震災による津波被害が最も大きかったのは、水産物加工や農業を主産業とする沿岸域だ。生態系サービスを存立基盤とする地域といえる。その生態系サービスを損なう形で復興しても、いずれは地域の持続性を失ってしまう。そこで、「グリーン復興」という考え方を提唱してきた。

 震災後に建設された巨大防潮堤によって、沿岸域の砂浜や低湿地などの生態系はかなり失われた。生物多様性の保全を考える上で重要な場所もあったが、環境アセスメントは行われなかった。一定の基準に基づいた防潮堤の建設が、トップダウンで決定されていった傾向がある。

 結論から述べると、復興過程でグリーンインフラとしての成功例は多くない。岩手県内には、住居の高台移転を前提に防潮堤をセットバックし、その高さを下げた場所が何カ所かあるが、宮城県内では少ない。

 ただ宮城県内では、巨大防潮堤を建設しなかった地域もある。気仙沼市の舞根地区は、その1つだ。震災後、高さ9.9mの防潮堤を建設する計画だったが、NPO法人「森は海の恋人」が中心となって、その計画を撤回させた。

 津波と地盤沈下で湿地化した農地を復旧事業で埋め立てる計画も変更した。少子高齢化や過疎化で埋め立て地を使う見込みが薄くなったためだ。地権者の同意を得て、約1.7haの湿地をそのまま保全している。

 さらに、湿地が河川と分離された状態であったため、河川護岸を改修して、河川と湿地を連結。潮汐に伴う海・河川の水循環を促進して、生物の回遊を活発にさせた(写真1)。

写真1■ 宮城県気仙沼市の舞根地区に再生された湿地。海とつながる河川と湿地を連結して水循環を促進している(写真:中静 透)
写真1■ 宮城県気仙沼市の舞根地区に再生された湿地。海とつながる河川と湿地を連結して水循環を促進している(写真:中静 透)
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 同じく気仙沼市の大谷海岸では、砂浜の消失を防ぐために海抜9.8m、底部の幅40~50mの防潮堤の建設計画を変更した。防潮堤を後退させて国道のかさ上げと一体化することで、砂浜を保全したのだ。かさ上げで生じる内陸側の後背低地は、市が公有地として買い上げ、盛り土をして、道の駅などを建設する計画となった(図1)。

図1■ 砂浜を保全した大谷海岸の防潮堤計画
図1■ 砂浜を保全した大谷海岸の防潮堤計画
当初は砂浜部分に防潮堤を建設する計画だったが、かさ上げした国道と一体化させて、セットバックした(資料:宮城県気仙沼土木事務所)
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