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港湾を生物の生息場として再生する動きが本格化してきた。生物共生型港湾構造物の開発は、その代表例だ。人工構造物の防御機能と自然の機能を併せ持つハイブリッドインフラで、機能性に富む。複数の機能を基にインフラの価値を考えていく取り組みにもつながる。(日経コンストラクション)

 国土交通省の交通政策審議会は2005年、港湾の開発・利用と環境の保全・再生・創出を両輪とする「港湾行政のグリーン化」を表明した。港のあらゆる機能に環境配慮を取り込み、環境の保全・再生・創出を総合的に進める方針を示したのだ。

 一方で、各地の港湾では、護岸など港湾構造物の老朽化が問題となり、改修が必要となった。この改修時に、港湾構造物に生物共生機能を付け加える技術の開発が始まった。

 国交省港湾局は14年に、「生物共生型港湾構造物の整備・維持管理に関するガイドライン」を作成。18年に、「港湾の施設の技術上の基準を定める省令」に環境の保全を図ると追記し、同基準に生物共生型防波堤の他、生物共生型護岸、生物共生型岸壁・桟橋を新たに加えた。

 生物共生型港湾構造物には様々な構造形式がある(図1)。例えば被覆形式では、護岸の前面や防波堤の背後に階段状の構造物を設置し、その表面を砂、礫(れき)、ブロックで覆う。桟橋形式では桟橋の下の空間を利用して、水中に生物床などを設置する。ケーソン形式では、生物が着生しやすい形状を工夫して、ケーソンに生物の生息場を設ける。

図1■ 様々な構造形式から成る生物共生型港湾構造物
図1■ 様々な構造形式から成る生物共生型港湾構造物
国土交通省港湾局「生物共生型港湾構造物の整備・維持管理に関するガイドライン」を基に作成
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 構造物に取り付ける生物の生息場は、砂泥、礫、ブロックの3つに分類される。どの構造形式でも、設置水深や水質、海象、生息を期待する生物に応じて、3つのタイプから適用する生息場を選べる。

 砂泥タイプは、生物の生息場として砂や泥を使用する。被覆形式では、生息場を潮間帯(満潮と干潮の間の水深)に設定すれば干潟となり、潮間帯よりも深い水深に設定すれば浅場となる。桟橋形式やケーソン形式でも、生物床として砂や泥を用いれば干潟や浅場となる。礫タイプは、生物の生息場として石や礫を使用する。ブロックタイプでは、藻礁や漁礁などのブロックを使う。

 国交省港湾局は07年に横浜港、10年に秋田、新潟、堺泉北、北九州、石垣の5港で、生物共生型港湾構造物の実験を行った。秋田港ではハタハタが産卵するガラモ場の造成を目的として、ブロックと礫の両タイプの被覆形式を採用した(図2)。

図2■ 秋田港の生物共生型護岸は被覆型のブロックタイプ
図2■ 秋田港の生物共生型護岸は被覆型のブロックタイプ
国土交通省港湾局「生物共生型港湾構造物の整備・維持管理に関するガイドライン」を基に作成(写真:国土交通省東北地方整備局)
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 堺泉北港では富栄養環境下での多様な生物の生息を目指し、砂泥と礫、ブロックの3タイプを併用。複数の生息場を設けて、環境多様性を確保した(図3)。

図3■ 堺泉北港の生物共生型護岸は被覆型の砂泥(干潟)とブロックの両タイプを使う
図3■ 堺泉北港の生物共生型護岸は被覆型の砂泥(干潟)とブロックの両タイプを使う
国土交通省港湾局「生物共生型港湾構造物の整備・維持管理に関するガイドライン」を基に作成(写真:国土交通省近畿地方整備局)
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 横浜港では、階段状の被覆形式砂泥タイプの生物共生型護岸を整備した(図4写真1)。階段状の干潟は間隙水が抜けやすいので、タイドプールや保水性を高める遮水シートを敷くなど工夫を重ねた。

図4■ 「潮彩の渚」の生物共生型護岸は砂泥(干潟)タイプ
図4■ 「潮彩の渚」の生物共生型護岸は砂泥(干潟)タイプ
国土交通省港湾局「生物共生型港湾構造物の整備・維持管理に関するガイドライン」を基に作成(写真:国土交通省横浜港湾空港技術調査事務所)
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写真1■ 「潮彩の渚」での環境学習の様子(写真:国土交通省横浜港湾空港技術調査事務所)
写真1■ 「潮彩の渚」での環境学習の様子(写真:国土交通省横浜港湾空港技術調査事務所)
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